■第3部 「インフラ」革新とエネルギー産業――学びか、競合か

 

ブロックチェーンはエネルギー取引基盤となるか

 
バナー_arm_3_200×140px 「お隣同士」などで、余った電気を売り買いしようという取引モデルを「P2P」(peer to peer)と呼ぶ。こうした最小単位でのエネルギー取引を実現するプラットフォームとして、ブロックチェーンを活用しようという取り組みも動き出している。ベルリンに拠点を置く国際組織のEWF(エナジー・ウェブ・ファウンデーション)は、エネルギーとブロックチェーンの融合が研究テーマで、世界のエネルギー関連企業やスタートアップ企業などおよそ100社が加盟、東京電力ホールディングスと中部電力も参加している。

 EWFではブロックチェーンを使って100万件以上の家庭が電力を自由に取引することができる将来像が描けると意気込むが、現段階では「現実の世界との折り合いが難しいのでは」とみる識者も多い。しかし、何かのきっかけで大きな革新が起これば、影響はエネルギー業界だけでなく、世界の仕組みを塗り変える可能性も秘めるだけに、組織加盟社としてエネルギー業界の名だたる企業が名を連ねる。
 
 

自動運転レベルの競争 公の場も用いて実証、データを収集

 

BOSCHの自動運転技術は世界最先端レベル(写真は自動運転の公開風景)
BOSCHの自動運転技術は世界最先端レベル(写真は自動運転の公開風景)

 自動車の電動化が進む中で技術を積み上げてきたドイツのボッシュは、車のセンサー技術を応用した多用なIoTビジネスの展開を志向、MaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)革命の有力プレーヤーとして注目を集めている。特に自動運転技術については、世界でも先端のレベルにあり、ダイムラー社と完全自動運転(ドライバーがいない状態での運転)についての技術開発・研究を共同で行う。

 シュツットガルトのメルセデス・ベンツ博物館の地下駐車場では、2017年から実施している公開実験の様子をみることができる。一般の来場者の車が行き交う中、センサーを搭載した自動運転車が指示通りの場所に移動する。移動速度はゆっくりで、突然現れた歩行者やルール違反の動きをする車に反応して停車するので時間はかかるが、完全にドライバーの手を必要としない状況で車が動く。
 

さらに広がるデータビジネス 社会と業界の構造変化を可視化

 

SAPの仮想の街『SAP immersive Experience』のデモンストレーション
SAPの仮想の街『SAP immersive Experience』のデモンストレーション

 欧州最大級のソフトウエア開発会社、SAPは、日本の電力会社向けにも、会計管理や人事労務系、工事量や資産・設備の管理、料金計算、コールセンターシステム運営まで、幅広い分野をカバーし、システムを提供してきた。

 電気事業のあり方が大きく変わっていく中で、様々なデータを活用し、変化に柔軟に対応していくことが求められると指摘する。例えば従来は料金収納を中心としていたシステムを活用し、顧客の家族構成や電力量データを分析し適切な料金メニューやニーズに合った家電製品を提案する。また、設備を監視する事業者と連携し、資産管理と保守・事故情報をつなぎ、電力系統ごとの不具合発生率と経年化の状況をきめ細かく分析した上で更新計画を立てるなどといった具合だ。

 SAP本社にあるPR施設では、仮想の街に訪れたゲストが未来の社会や事業のイメージを疑似体験できる。その未来のシナリオには、もはや「電気事業」「自動車産業」「金融業」というような事業セクターの区分はない。デジタル変革により多くの業際が破壊され、大量のデータが飛び交い、生活や社会の利便性を高めている。

 目まぐるしく変容する世界での舵取りには、「顧客」は誰か、何を求めているのか、という指針をたゆまず再定義する姿勢が求められるようだ。
 

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