■第2部 電力データ活用への挑戦 英国の事例から

 

電力使用量データの中核組織が存在する英国  Photo by Mary_R_Smith from Pixabay
電力データの中核組織が存在する英国 Photo by Mary_R_Smith from Pixabay

 

電力使用量データを収集し提供する組織 DCC

 
 英国には電力量データの集約と提供において中核となる組織がある。政府が主導して2016年に設立したDCC(データ・コミュニケーションズ・カンパニー)だ。

バナー_arm_2_200×140px 英国では小売電気事業者がメーターを設置するが、自由化が進む中で、顧客が供給者を切り替えるたびに、メーターの取り換えやデータ収集の業務が煩雑になるという問題が浮上した。このため、スマートメータリングシステムの運営会社としてDCCを設置したのだ。メーターデータの収集と提供事業を一手に担う、世界的にも珍しいモデルである。

 DCCは小売電気事業者や系統運用事業者から、スマートメーターの登録数に合わせてデータ取得料金を徴収するほか、第三者の新規データ利用者からもデータ取得分に応じてサービス料を受け取る。

 スマートメーターも増加し、収集される電力量データも増加する中で、そのデータの価値を2倍、3倍と膨らませていくのは、電気事業以外の新たなデータ利用者だ。利用者の中にはグーグルやアマゾンなど、「データの巨人」も存在する。

 

IoT時代のエネルギー、半導体とクラウドの両輪で安全に

 

アームはエネルギー部門へのIoT事業展開の切り口としてスマートメーターに注目する
アームはエネルギー部門へのIoT事業展開の切り口としてスマートメーターに注目する

 
 電力系統は従来、インターネットから独立した通信システムを構築し、システム全体でサイバーセキュリティーを担保してきたが、電力の分散運用の仕組みの拡大、また電力データを活用する新ビジネス創出機運の高まりによって、インターネット空間との融合にも踏み込まざるを得ない状況を迎えている。

 そうした中で、「半導体の設計段階から、安全性を確保する多様な機能を付加していく発想を」と呼びかけるのは、英国の半導体設計事業者のアームだ。

 現在はソフトバンクグループの傘下にあり、スマートフォンなど、モバイル機器に組み込む半導体のベース設計では圧倒的な世界シェアを持つ。半導体の基盤設計やプログラミングツールの提供を行っており、自動車の電動化技術にも多くのアームの車載向け半導体IP(設計資産)が採用されている。このように他産業で蓄積した知見を電力・エネルギー業界にも活かせるとみているのだ。

 同社は、新たにIoT向けのクラウドサービスを立ち上げた。「電力事業がIoT化し、機器やセンサー、メーターとさまざまな種類のデバイスが大量に繋がる時代。私たちの技術が、利便性と安全性の両立のためにどう使ってもらえるかを一緒に考えたい」と同事業の責任者は話す。

 電力機器のなかでも、アームが自社技術の導入を強く呼びかけているのがスマートメーターだ。コネクテッドホームの入り口であり、さまざまな家電機器と接続するスマートメーター。ここにアームの技術を導入することで、製造から実地配備、運用、撤去までのライフサイクルを通して、安全にデータを管理する技術基盤を、クラウドサービスとして提供できると強調する。

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 第3部(8月7日掲載予定)では金融、製造業、モビリティーなど、エネルギー業界と関係の深い分野におけるIoT化の動きを踏まえつつ、エネルギービジネスの転換をリードする事業者たちの戦略を紹介する。