バナー_arm_200×140px 2011年にドイツが国を挙げて提唱した「インダストリー4.0」は、あらゆる産業基盤をデジタルプラットフォームに変えてきた。エネルギー産業においても、De-Carbonization (脱炭素化)、Decentralization(分散化)、Digitalization(デジタル化)の3つをテコに、新たなビジネスモデルへの転換が進んでいる。設備やセンサー、メーターから得る膨大なデータを分析し、効率化や新ビジネスの創出に活用する「Data driven」の変革。有望なデータを扱う企業には熱い視線が注がれ、様々なモノと情報がつながる次世代プラットフォーム構築への投資も活況だ。

 電気新聞では、英独企業の戦略にみるエネルギービジネスの新潮流を、欧州レポート『Data-Driven Innovation 欧州エネルギービジネスの新潮流』としてまとめた。欧州レポートの概要を3回にわたり紹介する。

 

■第1部 配電プラットフォームのイノベーション

 
 再生可能エネルギーの急増と、政府支援の下で今後、急速に増える見通しの電気自動車。これらを既存系統に調和させていくという課題は、世界の電気事業者共通の悩みだ。配電ネットワークを巡る大変革に、ドイツの配電事業者たちはどのように対応していくのか――。

 欧州レポート『Data-Driven Innovation』の第1部では、今、最も注目が集まる配電プラットフォームのイノベーションを体現する、ドイツの2つの企業の挑戦に焦点をあてる。
 

潮流が双方向化する配電ネットワーク

 

系統の将来図を紹介するディジコー社のマティス社長
系統の将来図を紹介するディジコー社のマティス社長

 電力大手innogy (イノジー)傘下の配電事業者、Westnetz (ウエストネッツ)と同社出身の社長が立ち上げた、システムの開発企業DigiKoo(ディジコー)。開発の目的は、今後、増加が見込まれる太陽光発電やEV充電設備を「一切の追加投資をせずに、既存の配電系統に調和させる」ことにある。

 開発に取り組むのは、電力会社だけが負担を飲み込むのではなく、配電ネットワークを取り巻くステークホルダー全体を巻き込むために、系統の状況をあえて『見せる化』するシステム。果たして、複雑なエネルギー選択に関わる合意形成や意思決定を、透明化・迅速化することができるのか――。
 
 

VPPという名のIoTビジネス 運用データの蓄積が強みとなるか

 

ケルンに本社を置く世界最大規模のVPP事業者、ネクスト・クラフトヴェルケ
ケルンに本社を置く世界最大規模のVPP事業者、ネクスト・クラフトヴェルケ

 第1部で紹介するもう一つの企業は、Next Kreftwerke(ネクスト・クラフトヴェルケ)

 世界的に売り出し中のVPP(Virtual Power Plant、仮想発電事業)で、発足から10年の経験で集めてきた膨大なデータを解析し、発電量予測や蓄電池、発電機の制御についての精度を高めている。自らは発電設備を持たず、欧州を中心に約7000件、計600万キロワット分の蓄電池や発電機を集約して一元管理する。

 「TSOからは、従来電源よりも調整力の質が良い、反応が早いなどの評価を得ている」とし、調整市場などで稼ぐのが本業だが、近年の発電マーケット価格の低下に対応してVPPシステムの統合ソリューションシステムの販売にも力を入れている。こうしたシステムは非常に多くの企業が手がけ、競争が激しいが、引き合いも多く、開発者も自信を見せる。裏づけとなるのは、ネクスト社の「VPP事業の核」ともいえる、欧州市場で蓄積してきたデータの厚みだ。
 

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 第2部(7月31日掲載予定)では、スマートメーターとそのデータを巡る動きについて、英国の事例を踏まえて紹介する。