混雑する京都の観光地のゲートウェイ・京都駅(著者撮影)


 電力とは異なる分野だが、脱炭素やエネルギーと同じく現在の日本で最もホットな話題の一つにオーバーツーリズム、特に外国からの観光客の集中に起因する問題への対応が挙げられる。特に京都は外国人に人気の観光都市、同時に多くの住民が暮らす大都市でもある。その現状と対策をテーマとする研究会の分析・提言活動を通じて、対策の本質である「データを生かす」「人流をずらす、分散させる」「ユーザーとうまくコミュニケーションする」という打ち手は、意外にも再生可能エネルギー大量導入時代の電力システムとも通じるものがあることがわかってきた。

 オーバーツーリズムという概念は世界の主要観光都市で以前から指摘されてきたが、日本で話題になり始めたのは2010年代以降、円安時代に突入し外国からの訪問客が急増してからである。特に今回紹介する研究会の活動の場である京都は、東の鎌倉や箱根と並んで常にオーバーツーリズムの中心地といえる。またオーバーツーリズムの定義の一つに「その場に住まい・暮らす住民が一定比率(例えば半分)を超えて観光客を不快と感じるかどうか」(あくまでメディアの報道や伝聞情報ではないことが重要である)というものがあるが、この際のポイントは多くの住民が暮らしているかどうかであり、その点で京都はオーバーツーリズムが発生しやすい場所でもある。

 ◇多様な分野が集う

 今回紹介する京都オーバーツーリズム研究会は同志社大学今出川キャンパスを活動拠点とし、京都のオーバーツーリズム問題に興味や関わりを持つ交通経済学者、工学研究者、大学院生、経済団体の観光産業担当、オーバーツーリズムを初等中等教育でカリキュラム化する検討を行う研究者、ビジネス関係者ら多様な分野の研究者と個人が集まって24年に発足し、様々な角度から現状分析を行うとともに、関係箇所へのアイデア出しを行っている。

 今回はまず、オーバーツーリズムの対策として挙げられる分散、代替、規制、インフラ整備、利益の確保と可視化、相互理解(一橋大学・山内弘隆名誉教授による整理~『運輸と経済』2025.1「持続可能な観光を目指して」)といったものの中から、研究会で行ってきた発表・議論の中心的な話題であった「京都駅から市内へ集中する人流・荷物の分散化・時間差化=分散、代替」を紹介したい。徳田龍裕・関西経済連合会産業部参事が話題提供した関西観光本部が取り組む大阪・関西万博での「万博プラスワントリップ」を参考にして、京都市内から各地域への「プラスワンツーリズムの試み(京都だけに滞留せず、関西の他地域への周遊と組み合わせて)」や、交通経済学者である酒井裕規・神戸大学准教授が提起した神戸のクルーズ船への来日客誘導の可能性、さらには観光列車のような新しいサービスにインバウンド客に資金提供するなどのアイデアが出された。

 ◇当事者にない視点

 ここで重要なのはこの研究会のメンバーはオーバーツーリズム対策の中心から少し離れた場所にいるということである。例えば「京都から外に出す、それと組み合わせる」という視点は京都にいる当事者だけでは出てこないものであり、また行政を含む当事者の視点ではどうしても観光客を抑制する方向の施策に偏りがちになる。この研究会ではマクロ経済学上の分析(需要の価格弾力性が小さい場合、課金は需要を減らさず非効率だけが増加する※)も踏まえて主としてインバウンド客をずらす・分散させることを検討の中心に据えている。

 そして、この「分散化、時間差化、訪問客」にとっての魅力向上という文脈は、実は日本の電力システムが現在直面している再エネ大量導入、そのために起きている昼間時間帯の電気の余剰、必要とされる電気利用シフト、ユーザー側の参加の必要性といった対策と実は似通った点がある。そうした示唆も含めて、次回以降京都のオーバーツーリズムとその対策から学ぶべきものを整理してみよう。

※「運輸と経済」2025年1月号 西村陽・安達晃史「京都におけるオーバーツーリズム問題の検討について」

電気新聞2025年3月10日