生成AI(人工知能)の急拡大は、電力系統に新たな課題を突き付けている。問題は単純な電力不足ではない。焦点は、巨大需要を電力系統がどのように受け止めるかという「接続能力」にある。近年、AI向けデータセンターは単一拠点で数十万キロワット規模の電力を必要とする例が増えている。米国では1拠点で100万キロワット級の計画も報じられており、電力需要は短期間で立地が決まる場合も少なくない。こうした巨大需要が特定地域に集中すれば、送電網や地域インフラに大きな影響を及ぼす可能性がある。本稿では海外の具体事例を基に、AI時代の電力系統が直面する接続問題の構造を整理する。
AI向けデータセンター(DC)の電力需要は、近年急速に拡大している。
国際エネルギー機関(IEA)は、世界のデータセンター電力需要が2022年の約4600億キロワット時から26年には8000億~1兆キロワット時に達する可能性を指摘している。増加分だけでも中規模国家の電力消費量に匹敵する規模であり、AIが電力システムに与える影響は無視できない水準に達しつつある。
ただし重要なのは、単に電力量(キロワット時)が増えることではない。問題は、こうした巨大需要が特定地域に集中して立地することにある。
象徴的なのが、米国バージニア州北部のラウドン郡である。ここは世界最大級のデータセンター集積地として知られ、地域全体の契約電力容量はすでに数百万キロワット規模に達している。需要の急増に伴い、送電網増強や電源確保を巡る議論が州議会でも行われるなど、電力インフラと地域社会の関係があらためて問われている。

◇不確実性が課題に
このような状況の中で、近年電力系統運用者が直面しているのが、いわゆる「ファントム需要」の問題である。
これは、大規模需要の接続計画が申請されても、必ずしも実際の需要として実現するとは限らない現象を指す。英語圏では「投機的負荷(Speculative Load)」とも呼ばれる。
AIインフラの立地は企業の投資判断によって短期間で決定される場合が多く、他地点との「空押さえ」申請や計画の撤回も起こり得る。
その結果、系統計画の段階では需要予測が大きく不確実となる。
この不確実性の構造と、国内外で現在進められている対応策のファクトを整理すると、上部にある表の通りとなる。
例えば米国テキサス州のERCOTでは、デポジットの導入により実現性の低い申請を排除し、計画の確度を高めることに成功している。またPJMエリア内などでは、DC計画の変更に備え、送電設備投資の回収を需要家側が一定期間保証する契約形態が定着しつつある。
◇ルール整備も進む
日本においても、こうした諸外国の動きに呼応する動きが加速している。電力広域的運営推進機関(OCCTO)による接続申請様式の厳格化は、いわゆる「空押さえ」を物理的に制約する実務的な一歩である。
また、経済産業省の審議会などにおいても、早期接続という「利益」を受ける代わりに一定の着工期限を守ることや、系統への影響に応じたコスト負担を求めるなど、公平かつ実効性のあるルール形成に向けた議論が深まっている。
これらの事例が示しているのは、AI時代の電力問題が単なる発電量の確保に留まらないという点である。むしろ重要なのは、電源確保は言うまでもなく、巨大な需要地点に必要な電力を過不足なく送り届けることができるかということである。
そのためには、巨大需要の立地・接続・運用を電力系統がどのように受け止めるかという、新たなネットワーク形成のあり方が問われている。AIインフラの拡大は、電力系統の設計思想そのものを変えつつある。
そしてこの変化は、データセンターの立地や構造にも影響を与え始めている。
次回は、AIインフラが巨大集中型だけでなく、分散型へと広がりつつある背景について整理する。
電気新聞2026年3月23日





