国内初の大型案件で鹿島が建設工事に携わった「秋田港・能代港洋上風力発電所」(写真は能代港)

 洋上風力の建設工事に欠かせない要素は、「スピードとコスト」。これを実現するための施工力、設計技術力をどう磨いていくかが受注の鍵となる。再エネ海域利用法に基づく1回目の公募案件「第1ラウンド」で、指定された3海域全ての施工を担う鹿島の担当者はこう語る。建設事業者としてプロジェクトに貢献すべく、海上工事に向けた準備が進んでいる。

 ◇3海域全て挑む

 鹿島は民間発注案件を中心に、半世紀以上前から海洋土木工事を手掛ける。この経験を生かし、洋上風力発電設備の建設工事に参画。国内初の商用大型案件となる「秋田港・能代港洋上風力発電所」(秋田市、秋田県能代市、総出力約14万キロワット)で施工を担った。同社土木管理本部再生エネルギー部の宮本久士部長は、「コロナ禍など厳しい状況にも直面したが、工期内にやるべきことができた」と手応えを示す。

 秋田港・能代港のプロジェクトは、東北、中部、関西の大手電力3社や丸紅などが出資。日本国内で洋上風力の試金石といわれた案件だ。鹿島は住友電気工業と共同事業体(JV)を組み、秋田港で出力4200キロワットの風車を13基、能代港で同20基を据え付けた。洋上風力で先行する欧州から30人の技術者を迎え、英シージャックスの自己昇降式作業台船(SEP船)を採用。施工時期は2020~22年。コロナ禍真っただ中の厳しい状況を乗り越え、見事に工期内で完成させ23年1月に全基運開した。スムーズな施工に対し、シージャックスの技術者からも賞賛の声が聞かれたという。

 ◇コロナ禍超えて

 この実績を踏まえ、鹿島は洋上風力公募の第1ラウンドで指定された3海域「秋田県能代市、三種町及び男鹿市沖」「秋田県由利本荘市沖(北側・南側)」「千葉県銚子市沖」の施工に挑む。今回は欧州で40件以上の洋上風力を手掛けるオランダの海洋土木大手バンオード社と組み、相乗効果を発揮させる考え。宮本部長は、「欧州の良い所と日本のルールを融合させて、『新日本流』のようなやり方を作り上げたい」と意気込む。

 国内洋上風力案件の形成が着実に進む中、他の建設事業者でも活発な動きが見られる。特に圧倒的な存在感を放つのが、清水建設が約500億円かけて建造した世界最大級のSEP船「BLUE WIND(ブルーウインド)」だ。清水建設はこのSEP船を武器に、洋上風力の建設に参入。北陸電力などが出資する入善洋上風力発電所(富山県入善町、7495キロワット)、港湾区域内の石狩湾新港洋上風力発電所(北海道石狩市、小樽市、11万2千キロワット)といった国内案件での活用に加え、台湾の洋上風力プロジェクト向けに海外への用船も経験している。

 海を主戦場とする建設事業者、いわゆる「マリコン」の動向にも注目が集まる。海上工事に関する豊富な知見と技術を生かしながら、洋上風力で事業拡大を狙う。マリコンとゼネコンがタッグを組み、SEP船を共同調達する動きも出ている。九州電力グループやJパワー(電源開発)などが出資する北九州響灘洋上ウインドファーム(北九州市、22万キロワット)では、海洋土木最大手の五洋建設が鹿島、寄神建設と建造したSEP船を使って海上工事を進めている。

 政府は洋上風力産業ビジョン(第1次)で、30年までに1千万キロワット、40年までに3千万~4500万キロワットを導入する目標を掲げる。再エネ拡大に向けた“切り札”と位置付けられ、足元では日本の領海内にある港湾区域や一般海域で導入を進めている。将来的には広大な面積のある排他的経済水域(EEZ)への展開も計画される中、洋上風力の普及を支えるのが建設事業者の存在。カーボンニュートラルの実現に向け、海上での闘いが始まっている。

電気新聞2024年4月2日