司会 最近のエネルギー情勢の変化を踏まえ、今後のエネルギー政策に何を期待しますか。

 ◇国の一定の関与が必要

鈴木 一人氏
鈴木 一人氏

 鈴木氏 地政学リスクや脱炭素などグローバルな課題が出ている中で、エネルギーの問題は国がある程度関与しなければ、供給や価格を安定化させることが難しいと思います。米国や英国は完全に市場に任せた結果、価格の安定性が犠牲になりました。今後、脱炭素やインフラ整備など何をするにしてもコストは発生するわけで、そのコストを誰がどう負担するのか。日本では東日本大震災以降に電力自由化が進められてきましたが、FITによる再エネ導入の仕方を含め、本当にそうあるべきなのかをあらためて考え直すべきです。
 現在は誰がどう決めるかという原則がないまま、ある部分は市場に任せ、別の部分では国がインセンティブを与え、一部はほったらかしになっている状況だと感じています。個々の政策が悪いわけではなく、バラバラであることが問題だと思うので、政府はきちんと目標実現までのストーリーを描いて、みんなを動かしていくことが必要だと思います。

 ◇不確実性にどう対処するか

松尾 豪氏
松尾 豪氏

 松尾氏 現在は事業者にとって発電から小売りまで極めて不確実性が高い時代です。このような状況では、事業者は保守的な経営行動をとりがちになり、そのリスクは国民や企業に向かう可能性があります。また、電力と燃料は切り離せないものなので、国際政治や安全保障の観点からの議論も大切です。国は上流から下流までしっかりと俯瞰した上で、事業者の不確実性を埋めるような仕組みを作っていく必要があると思います。

 司会 今年はエネルギー基本計画の見直しもありますが、事業者として要望することは。

 佐々木氏 事業者としては電力システム全体として確実に費用が確保できて、それを再投資に回せるような枠組みが確保されないままだと、電力需要が伸びていく見通しがある中では、やがて立ち行かなくなると危惧しています。国には民間事業者が投資予見性を得られるような政策や、ファイナンスへの手当てをしっかり行っていただきたいと思います。また、脱炭素とエネルギー安全保障を両立できる電源はやはり原子力だと思います。2050年に向けて新増設やリプレースの方針をしっかりと打ち出していただき、投資をしていかなければいけない。バックエンド事業や原子力賠償責任など原子力の事業環境整備も行っていただきたいと考えています。

 司会 最後にエネルギー事業者への期待を伺えればと思います。

 鈴木氏 あくまで印象ですが、日本の電力産業は安定供給や経営効率化などいろいろと求められる中で、企業のアイデンティティーがはっきりとしていないような気がします。仮に、国として安定供給を最優先すると明確にするのであれば、市場原理を導入する中でも、国と企業の役割は整理されてくるのではないかと思います。企業は自らのアイデンティティーをはっきりさせる。それを国はきちんと政策のストーリーの中に位置づけることが大事だと感じています。

 松尾氏 カーボンニュートラルの潮流が続いていく中で、個人的には電力会社以外の民間企業の脱炭素化を誰が担っていくのかという問題意識があります。脱炭素化はエネルギーに関係することが非常に多く、電力会社は幅広い分野でエンジニアリングを含め様々な知見を持っています。そういう意味で、電力会社は脱炭素化の担い手として技術的な面からも需要家にとっての最適解を出しやすいと思います。

 佐々木氏 日本の電気事業は昭和初期の一時期を除き、ずっと民間企業が担ってきた事業です。これまで各地域の経済成長を電力の安定供給を通じて下支えしてきたという自負とともに、地域の皆さまに育てていただいたという思いが強くあります。災害復旧時には、地域の皆さまや社内で奮闘する仲間の顔を脳裏に浮かべながら、歯を食いしばって1分1秒でも早く電力復旧させるという魂は各社共通の価値観です。
 しかしながら電力自由化の中で、このDNAをどうやってつないでいくかということに腐心しているのも事実です。現在、電気事業には様々なプレーヤーがいますが、こうした思いを分かち合っていかなくてはいけないと思う一方で、事業者のメンタリティーに依存した電力システムは非常に危ういとも思います。国と事業者の役割分担と責任をもっと明確にした上で、事業を担っていくことが重要だと考えています。

 司会 本日はお忙しい中、ありがとうございました。

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