開発中のマター対応製品を紹介する美和ロックの担当者

◆新規格で開閉と家電を連携/配達、宅内点検の効率化も

 鍵・錠前の国内最大手、美和ロック(東京都港区、川邉浩史社長)は、スマートホームへの対応を強化している。同分野のスタートアップ、アクセルラボ(東京都新宿区、小暮学代表取締役)と共同で、宅内ネットワーク構築を簡略化する新規格「Matter(マター)」の実装を目指す。日本のスマートホームは海外と比べ普及が遅れるとの指摘もあるが、スマートロックとマターを組み合わせることで「施錠と同時に宅内の照明をオフにする」といったサービスを簡単に提供できる可能性が広がる。美和ロックの西崎明子執行役員は「間取りや生活そのものも変わる」と取り組みに意欲を示す。(海老宏亮)

 マターは様々な家電やIoT機器などの相互接続性を確保し、設定の簡便化を図る。アップル、グーグル、アマゾンなどが参画する業界団体「コネクティビティー・スタンダーズ・アライアンス(CSA)」が2022年に策定した。

 美和ロックはこれまでもICカードなどで施錠・解錠できる製品を展開してきた。利便性はお墨付きだが、導入・設定作業の煩雑さが課題。特に同社は、主に不動産会社などと取引する営業が多い。高齢層なども含め様々な入居者を想定する不動産会社の視点に立つと、費用対効果をシビアに判断せざるを得ない。

 ◇エネ最適利用も

 マターの普及は、こうした課題の突破口になる。導入・設定の簡略化につながるのはもちろんのこと、数多くのメーカーが参画する点が強みだ。日本の家電通信規格、エコーネット・ライトとの連携を進める動きもある。

 錠前に実装できれば「鍵を掛けると同時に宅内の空調や照明をオフにし、給湯器や蓄電池を制御する」といったエネルギー最適利用や、「鍵の開閉記録から入居者の異状を検知する」などの付加価値がより提供しやすくなる。入居と同時に家電と連携する生活環境を提供できる。

 スマートホームゲートウェイを提供するアクセルラボは、マター実装をサポートする。同社は「スマートホームのソリューション提供」を事業の軸に据えており、「将来的にマター対応製品がインターホン、シャッターと増えたときに、便利な連携を提供することで収益につなげる」(青木継孝CTO)考えだ。

 ◇玄関脇に冷蔵庫

 スマートロックによる家電や共用設備の連動は中国や韓国では既に提供されており、日本は追い掛ける立場にある。ただ、西崎氏の構想は一歩先を行く。

 その一例が「物流の2024年問題」への対応。再配達の課題がかねて指摘されるが、スマートロックが普及すれば不在時、配達員に時限的な解錠権限を与え宅内に配達物を置いてもらうことも可能になる。さらに西崎氏は将来、「生鮮食料品の配達を冷蔵庫までやってもうために玄関近くにキッチンを配置する時代が訪れるかもしれない」と語る。実現すれば、運輸の脱炭素、フードロス削減といった社会全体の便益につながる。

 電気保安協会やガス導管会社の宅内点検も同様に解錠権限を付与することで、作業員の日時調整を簡略化し、より確実な点検で事故リスクを低減する。作業員の動きはIoTカメラとスマートフォンを介し、遠隔で入居者に確認してもらうことで安心につなげる。IoTセンサー類を得意とするアクセルラボとの協業につながる可能性もある。

 マター搭載製品の第1号は、マンション向けで既存製品と交換した場合もなじむデザイン。投入は24年末を予定する。まず賃貸集合住宅を運用する不動産会社を主なターゲットに据える。スマートホーム化に関心ある層からの反響も大きく、直販サイトで個人販売する予定だ。対応製品を増やすことも計画する。

電気新聞2024年4月16日