学説3 耐圧密閉の頑丈な格納容器は不要になり、原子力の設計が変わる

 
 福島原子力事故以前の、従来の原子力安全の考え方は、炉心溶融事故が起きれば、放射能を密閉容器に貯留して減衰時間を稼ぎ、容器が耐えきれなくなった時にベントを開いて放射能を放出するというものであった。この考えに添って作られたのが、耐圧密閉の頑丈な建物――格納容器で、その中に本尊の原子炉を置いた。従って格納容器は、周辺住民を放射線被爆から守る「安全最後の砦」と考えられてきたのであった。

 ところが、福島原子力事故の経緯は、上記の考えと大きく違っていた。炉心溶融が起きると、水素ガスの大量発生によって格納容器圧力が急速に上昇するので、貯留時間を稼ぐ暇などなく、ベントの開放が急務となった。これは世界で初めての経験である。

 この事実は、放射線安全についての思考に変化をもたらす。

 学説2で述べたとおり、BWRベントの除染効果は1000倍ほどある。ベントを行った1、3号機の背景線量率は約20mSv/年であった。ベントができなかった2号機は、格納容器から放射能が漏れ出して、その背景線量率は1500mSv/年にも達した。単純に数値を見ても、その差はざっと100倍、どちらが被爆を低減するかは計算するまでもなかろう。

 事故が起きた場合、ベントを開いて放射能を放出する方が、格納容器に放射能を蓄えるよりも、背景線量率(被曝や汚染)は桁違いに少ないのだ。格納容器を「安全最後の砦」とする従来の考え方は誤りで、積極的にベントを活用し被爆量を小さく抑えるべきではないだろうか。

 格納容器の役目が「安全最後の砦」でなくなれば、あの高価な、円筒形の大きな高圧密閉建物を作る必要は全くない。密閉であれば普通の建物で十分だ。

 円筒形の密閉建屋が不要となれば、発電所の配置設計は楽になる。将来の発電所は、原子炉、タービン建屋、補機建屋などの建屋配置が総体的に合理化され、自然災害対策に強く、テロ対策にも配慮した発電所になると考える。