三菱重工の神戸造船所にある原子力の中央制御室を模擬したシミュレーター施設

◆訓練用シミュレーターの外販も

 三菱重工業は、原子力発電所の中央制御室を模擬した施設で社員教育に注力している。電力会社の運転員のようにプラントの起動停止を操作し、各機器の稼働状況を担当設計者が学ぶことにより、プラント全体の中で個別機器がどう機能するかを俯瞰(ふかん)する「プラント屋」の視点を身に付け、製品の改善につなげる狙いだ。様々なトラブルを再現でき、近年はサイバー攻撃を想定した訓練を重ねる。サイバーテロ対応演習や、特定重大事故等対処施設(特重施設)教育の拡販活動も推進している。(匂坂圭佑)

 ◇緊張感ある教育

 原子力プラント機器の製造拠点である神戸造船所(神戸市)内に、シミュレーター施設を構える。三菱重工が納入してきたPWR(加圧水型軽水炉)の中央制御室の大型モニターや操作盤を画面で再現する。実機では起きないような負荷変化や異常も再現でき、製品の品質向上や検証に活用している。

 シミュレーションの中で異常を起こすと、施設内にけたたましい警報が鳴り響くなど、緊張感のある教育を実施している。タッチパネル式のボタン操作が主流だが、制御棒の操作にかかわるアナログ式レバーも設置している。

 取材で訪れた記者も重みのあるレバーを操作させてもらったが、レバーを動かす前工程として複数回のボタン操作が控える。指示された通りのボタンを押せているのかどうか、短時間ながら手に汗を握る経験を味わった。

 三菱重工は多くの設計者を抱えるが、「担当分野に特化しがちなため、『プラント屋』としての視点を身に付けてもらう」と担当者は教育の趣旨を話す。担当する機器が稼働時にプラント全体の中でどのような挙動を見せるのか、操作されるのかといった机上で学びにくい感覚をシミュレーターで養う。運転操作シミュレーションで得た気付きを通じて「知識だけでなく心を刺激する」(担当者)ことで、設計への積極的な改善提案を引き出す。

 技術系社員だけでなく、事務系社員も技術の知識レベルに合わせて教育を受ける。機器や運転への理解を深めることで「自信を持って顧客と接することができ、モチベーション向上にもつながる」と担当者は意義を話す。三菱重工は「熱血!シミュレータ塾」と名付けた教育を月2回程度、若手からベテランまで施している

 ◇サイバー防護も

 シミュレーター施設は顧客へのデモンストレーションにも活用する。三菱重工はPWR実機の中央制御室だけでなく、訓練用のシミュレーターを電力会社に販売している。近年はサイバー攻撃対応演習サービス「エクササイバー」の提案に力を入れる。システムがハッキングされ改ざんされるといったシナリオへの対応力を高められる。教育カリキュラムとして、すでに提供実績もある。巧妙化するサイバー攻撃に対し万一のトラブルも防ぐ考えだ。

 三菱重工は特重施設の教育用シミュレーター施設も販売している。PWRの再稼働が先行した知見を生かしてBWR(沸騰水型軽水炉)からも特重施設を受注しており、教育ツールも両プラントに提案する。どのような過酷な事故が起きても原子力の安全を守れるように特重施設の操作手順を学べる。電力会社からのニーズも届いているという。

電気新聞2024年2月21日