フランスで電力小売り市場活性化のためフランス電力(EDF)に義務化された原子力発電による発電電力の一部を新規小売事業者へ拠出する規制アクセス制度(ARENH=アレナッシュ)の後継制度について、制度上の不備に懸念が持ち上がっている。EDFによる原子力の発電電力の全量を先渡し市場に拠出し、2026年から年平均で千キロワット時当たり70ユーロを目標に販売する計画だが、市場価格下落時の補填など、制度設計での不明な点が指摘されている。(編集委員・堤健吾)

 ARENHは小売電力市場が自由化された後の11年から市場活性化のためEDFに義務付けられた、原子力発電の発電電力を新規参入の小売事業者へ一部拠出する制度。EDFが既設原子力の発電電力量の4分の1を上限に千キロワット時当たり42ユーロで販売し、小売事業者がベースロード分として調達できる権利を持つ。25年までの運用とされ、政府で後継制度が検討されている。

 EDFは26年以降、新設を含む原子力発電の全量を4~5年の先渡し市場で販売する。制度導入後15年間で千キロワット時当たり年平均70ユーロでの販売が目標。23年から実施中の実験オークションは、27、28年受け渡しの約定価格が70ユーロ前後で推移する。

 ただし、この平均70ユーロの価格設定が今後どう維持されるのかは不明だ。また、市場価格が下落した場合の下限値を考慮していない点も不備と指摘される。後継制度案では、近年の卸電力価格高騰を踏まえ一定の閾値を超えた場合にEDFが需要家へ超過分の一部を払い戻す仕組みが想定されるが、下限を下回った場合に一定の収益を確保できる仕組みは整っていない。

 ◇上院が不備指摘

 上院は今月公表した報告書で同制度の不備を指摘した。政府とEDFが密室で合意したといわれる点や、EUでも議論された双方向のCfD(差額決済契約)制度を採用しなかった点などに疑義を呈した。双方向のCfDでは市場価格が上限を上回ればEDFが超過分を払い戻し、下限を下回れば不足分を小売事業者がEDFに補填する仕組みだ。

 ARENHの後継制度案は1月に諮問に付されたエネルギー主権法案にも盛り込まれたが、現在は法案自体が取り下げられている。

 エネ主権法案は、原子力の経年化や再生可能エネルギー向け資源の輸入依存、EUの競争導入による水力開発の不確実化を踏まえ、フランスが自国のエネルギー主権を明確化する目的で検討されている。市場や脱炭素に関わるルールを設けるEUの条約とは明確に区別し、エネルギーミックスや資源開発など自国の選択の自由を取り戻す試みだ。下院は23年、再エネ開発偏重の政策を是正し、既設原子炉の運転延長や新設促進、人材育成など産業全体の再生を目指す報告書を公表した。

 ◇積極的政策なく

 フランスは今月の下院選挙で左派連合、旧与党連合が極右政党の台頭を抑えたものの、最多議席の左派連合4党は原子力政策に関して見解に相違があり、積極的な政策を打ち出せていない。左派による少数与党政権となるか、反原子力政党を除く左派・中道政党の連立政権か、暫定的な政権維持となるか、現状は混とんとしている。

電気新聞2024年7月25日