使用済みのキャスク6基が米国に輸出された(写真は昨年12月、ニューオリンズ港で行われた艀への積みかえ作業)

 原子力発電所で発生する低レベル放射性廃棄物を巡り、国内で初めて、大型金属のリサイクル処理に向けた海外輸出が実施された。日本原子力研究開発機構の東海再処理施設に使用済み燃料を持ち込むのに使われたキャスクなどを日本から海上輸送。溶融に向けた前処理などを行う、米国テネシー州メンフィスにある、米国エナジーソリューションズ社の施設への運び込みが完了した。廃止措置や設備更新で生まれる大型機器の取り扱いは、原子力事業者の大きな懸念材料。海外でのリサイクル処理が選択肢の一つとなりそうだ。

 日本から搬出されたのは、原子力機構の東海再処理施設と新型転換炉原型炉「ふげん」に保管されていた金属キャスク6基、計600トン。昨年11月に国内の港を出航、パナマ運河を経由し、12月にルイジアナ州ニューオリンズに到着。ミシシッピ川を遡上(そじょう)して、年明けに、エナジーソリューションズ社のメンフィス施設への受け入れが完了した。

 エナジーソリューションズ社は2005年設立。米国内で廃止措置事業を展開するほか、原子力発電所などで廃棄される汚染金属を溶かして再資源化する金属溶融リサイクルでも、豊富な実績を残している。これまでにカナダや英仏独などの欧州各国から、合計7千トン以上の汚染金属を受け入れている。

 キャスクは、7月末までに溶融に向けた前処理を終える予定。テネシー州オークリッジ近郊のベアクリーク処理施設に移送して、同施設で溶融、加工され、原子力関連施設で使用する遮蔽ブロックとしてリサイクルされる。

 同社のコリン・オースティン国際ビジネス担当上級副社長は「金属キャスク受け入れは、プロトタイプのプロジェクト。今後のメインターゲットは蒸気発生器(SG)だ」と話す。

 現状、国内の原子力発電所敷地内には30基以上のSGが保管されている。廃止措置中のプラントに入ったままのものもあるほか、関西電力高浜発電所3、4号機では現在、SG取り換えの設置変更許可を原子力規制委員会に申請しており保管数はさらに増える見込みだ。国内には大型金属の処理施設がなく、敷地内の放射線管理区域などで一時保管されている状態。円滑な廃止措置に向けた作業スペース確保などの観点からも課題となっている。

 これまでは、外為法で放射性廃棄物の輸出が禁止されていたが、政府は昨年1月に同法の規則、告示を改正。SGと給水加熱器、輸送・貯蔵用キャスクの3種類の大型金属について、相手国の同意を前提に、有用資源として安全に再利用されることなどを条件として、輸出が解禁された。

 オースティン副社長は「日本に、海外での金属溶融リサイクルというオプションがあることをデモンストレーションする良い機会となった」と今回のキャスク受け入れの意義を語る。輸出が認められるSGなどの大型金属受け入れについて、国内原子力事業者にアプローチをしていく方針だ。

 また、「当社の技術で、格納容器内部の高汚染物を除き、原子炉建屋内のほぼ全ての金属がリサイクル可能だ」と話す。例えば東京電力福島第一原子力発電所の多核種除去設備(ALPS)処理水の貯蔵タンクも例外ではなく、「タンクが占めるスペースを空けられれば、福島第一の廃炉ミッション達成にも寄与できる」とのビジョンを示す。

電気新聞2024年2月26日