電力業界は予測不能なVUCAの中にある

 
 今という時代を最も的確に表す言葉として注目されているのが、VUCA(ブーカ)である。VUCAとは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)という4つの頭文字から取った言葉で、現代の経営環境や個人のキャリアを取り巻く状況を表現するキーワードとなっている。これは、1990年代にアメリカの軍事領域で用いられてきた言葉で、「予測不能な状態」を意味する。電力業界は、VUCAの中にあり、これに対応するテクノロジーこそが「デジタル」である。
 
図_VUCA_4c
 

電力自由化、福島原子力事故、ブラックアウト・・・

 
 VUCAの中で、V(Volatility、変動性)とは、社会を形成する個人、すなわち、消費者の趣味・趣向は多様化し絶えず変化していることである。これは、インターネット・テクノロジーの進歩と共に、市場はどんどん細分化されつつあることが背景にあり、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス、参加型サービス)の変遷が典型例である。先駆けとして「My Space」、「mixi」などがあったが、現在では、「Facebook」や「Twitter」に移り、革新的サービス「LINE」が台頭してきた。また「snapchat」、「Shots of Me」、「Instagram」など新たなサービスが続々と登場し目まぐるしく変化している。電力業界におけるVとは、SNSの登場で変化した「消費者行動」である。ここに追い打ちをかけたのが、「電力自由化」である。

 U(Uncertainty、不確実性)とは、予期せぬ出来事が発生することを意味する。昨今の国際情勢を例にとると、イギリスのEU離脱とアメリカのトランプ大統領の出現がある。電力業界におけるUとは、明らかに2011年の「フクシマ」(福島第一原子力発電所事故)と2018年の「北海道ブラックアウト」である。
 
図_電力業界におけるVUCA_4c
 

多角化、そして曖昧性という未知の領域――

 
 C(Complexity、複雑性)とは、現代のボーダーレス化、グローバル化がもたらしたもので、多数の当事者、企業、国家が関わることによって生まれた現代の複雑性のことである。タクシーの代わりにアメリカから世界に広まったUberが投げ掛けたイノベーションは、シェアード・エコノミーと呼ぶ所有から利用への変化である。しかしながら一方で、Uberは、日本では、法整備がこれらのイノベーションに追い付いていないか、タクシー業界の抵抗が大きいためか、結果的に、ごく一部に限定されている。電力業界におけるCとは、電力自由化による新規参入と、攻め込まれた反撃としての事業の多角化である。

 A(Ambiguity、曖昧性)とは、曖昧なものを排除するのではなく、包括しながら進むことを意味している。典型例が、ベンチャーキャピタルファンド事業である。同事業は、投資家から集めた資金を、ベンチャー企業に投資するのだが、本質は、投資先が、多くの場合、利益を産む企業に成長しない曖昧性を包括している、成功確率の方が低いことを前提としていることにある。電力業界におけるAとは、業界の常識が、「失敗してはいけない」ことにあるため、これは、未知の領域である。
 

VUCAは危機でありチャンスでもある

 
 これまで、「VUCAとは?」「電力業界におけるVUCAとは?」について述べた。このVUCA時代の到来の背景には、予測不能性を加速しているインターネット・テクノロジーの進化がある。そこで、インターネットの進化の影響について、50を超える多様な業界について概観したところ、VUCAは、危機でもありチャンスでもある。

 次回以降、約20兆円の電力業界において、これをチャンスとして捉え、その有効な手段としてのインターネットを基軸とした「電力のデジタル化」について述べる。

電気新聞2018年11月5日

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