前回述べたように電力業界におけるVolatility(変動性)は、「電力自由化+消費者行動」で、Uncertainty(不確実性)とは、「フクシマ+ブラックアウト」である。「電力自由化」は、先進国での国営企業や独占企業の非効率性に関する政策論が出発点である。「原子力」は、福島第一原子力発電所事故を契機とした安全性に関する政策論が出発点である。今回は、政策論を超えた、テクノロジー&トレンドの視点から電力業界は、これら相互に関連したVとUへいかに対応すべきかについて述べる。
 

供給者側の論理から需要者側の論理へ

 
 1985年頃、「通信の自由化」の世界的な政策で、電話を中心とした通信事業における競争原理の導入機運が高まり、NTT対NCC(新規通信事業者)という構図が作られた。しかし、結果的には、通信ネットワークは、電話ではなくコンピューターのためのインターネットへの劇的な変化が起こり政策の意図と全く異なるインターネット業界が形成された。この変化の本質は、テクノロジーの変化、すなわちインターネットの台頭である。

 発送電分離と送配電網の開放による発電、小売り部門の分離は、ある意味、30年前に通信業界で起こったパラダイムシフトでしかなく、本質的に新たな消費者行動の創出につながるものではない。換言すれば、約20兆円の電力業界を成長させるものではない。重要なのは、発電事業者、小売事業者、送配電事業者が提供する「電力市場の成長シナリオ」である。情報通信産業は、インターネットを中心に据えることで、約30年で2倍を超える成長を遂げることができた。この成長の中心を担ったインターネット・テクノロジーの果たした役割は、「供給者側の論理から需要者側の論理への転換」をもたらしたことにある。

 電力の自由化政策は、(1)送配電ネットワーク(2)パワープール全体の需給管理機能(3)スマートメーターのデータ――という3つのプラットフォームを利用した、プラットフォーム提供者と、これを利用するサービス提供者の分離(アンバンドル)であるが、重要なのは、アンバンドル・プラットフォームに対するインターネット・テクノロジーと分散型技術を活用した新サービス創出である。

図1_情報発信源とネットビジネスの進化_4c
 

あらゆる産業をデジタル化するIoT

 
 ここで電力のデジタル化をもたらす決定的なインターネット・テクノロジーが、IoT(モノのインターネット)である。IoTによって収集されるデータには、データサイエンスに基づく人工知能(AI)処理が必須となる。既に、IoTは、インターネットの業界を一変させ始めている。その本質は、図1に示すようにウェブによる情報発信の仕組みを第3世代へと世代交代させたことにある。これまで、インターネットによる情報発信源は、第1世代の情報提供事業者(アマゾン、グーグル等)から第2世代(フェイスブック、ツイッターなど)の利用者へと進化した。そして、現在起こっている進化は、第3世代ではモノが情報発信源となったことである。この結果、インターネットは、情報通信産業の進化にとどまらず、あらゆる産業のデジタル化という新たなフェーズに入ったと言える。

図2_自動車業界のコネクテッドの取り組み_4c
 最初に産業のデジタル化の影響を受けたのは、図2に示すように、自動車産業で、コネクテッド(つながる)、自動運転(AI化)、シェアード(共有化)、電動化(蓄電化を含む)が現実のものとなっている。電力のデジタル化も全く同様である。次回以降、残りの2つのComplexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)を踏まえて、電力において何をつなぎ、どのようなデジタル・サービスが期待されているかについて述べる。

◆VUCA(ブーカ)とは
Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)という4つの頭文字から取った言葉。

電気新聞2018年11月12日

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