東北電力は2020年2月に今後10年程度の経営の方向性を示す「東北電力グループ中長期ビジョン」を策定した。同ビジョンでは、社会課題を解決し、地域に住む方々が快適・安全・安心に暮らすことができる社会を実現する「スマート社会実現事業」を成長事業と位置付けている。「東北発のスマート社会」の実現に向けて、当社が取り組むVPP(バーチャルパワープラント)実証プロジェクトについて、全3回にわたり解説する。


 「東北電力グループ中長期ビジョン」では、グループ経営理念「地域社会との共栄」、グループスローガン「より、そう、ちから。」を引き続き掲げ、2030年のありたい姿を「東北発の新たな時代のスマート社会の実現に貢献し、社会の持続的発展とともに成長する企業グループ」としている。
 

人口減少、少子高齢化・・・顕在化する課題

 
 電力小売り全面自由化に伴う競争の激化、再生可能エネルギーの導入拡大やデジタル化に伴う電力需給構造の変化など、当社グループを取り巻く事業環境は大きな転換点を迎えている。また、事業基盤を置く東北6県・新潟県では、他の地域と比較しても人口減少や少子高齢化が加速しており、今後、様々な分野で社会課題が顕在化し、社会構造も大きく変化していくことが想定されている。ビジョン策定の背景には、こうした環境変化への強い危機感がある。

 ビジョン実現に向け、当社グループの基盤事業である「電力供給事業」の構造改革を進め、競争力を強化し安定的な収益確保を目指すとともに、「スマート社会実現」に、経営資源を戦略的に投入し、ビジネスモデルを大きく転換させていく。


 東北電力では「スマート社会」を「地域における人口減少や少子高齢化により、交通、教育、福祉等様々な分野で顕在化する社会課題を、次世代のデジタル技術やイノベーションの活用等により解決し、地域に住む方々が快適・安全・安心に暮らすことができる社会」と定義している。「スマート社会」の実現に向けた事業として、具体的には「カーシェアやEV充電などのモビリティサービス」、「見守りなどの生活関連サービス」、「VPPとしての地域のエネルギーリソースの有効活用」、「分散型エネルギーや蓄電池等の設置サービス」、さらにこれらのサービスをトータルで提供する「タウンマネジメント」などを想定している。

 このうち、当社では、特に「VPP事業」、「分散型エネルギーや蓄電池等の設置サービス」の2事業について、早期の事業化を目指している。
 

VPP事業から、レジリエンスや環境問題への対応も

 
 「VPP事業」は、地域に存在している太陽光発電設備や蓄電池、EVなど需要家設備を一括して遠隔制御し、一つの発電所のように機能させることにより、エネルギーリソースを有効活用するもの。VPPを活用することにより、需給調整市場・卸電力市場等での市場取引や相対取引で収益を獲得し、その収益の一部についてリソースを提供頂いた地域のお客さまに還元するビジネスを通じて、地域のお客さまと当社が相互にメリットを享受できるWin―Winの関係を構築していく。さらに再生可能エネルギーの一層の有効活用、電力系統の安定化、地域防災力の強化、お客さまの省エネルギー化などを図り、将来の事業領域の拡大につなげていく。

 また、「分散型エネルギーや蓄電池等の設置サービス」は、将来のVPPリソースとしての活用も視野に入れた取り組みであり、各メーカーなどとの連携・協業により、東北電力が初期費用を負担し、地域のお客さまに太陽光発電設備や蓄電池を導入する「第三者所有モデル」を採用する。お客さまは太陽光発電設備から供給される電力を日々最大限活用しながら、太陽光発電と蓄電池を活用することで、災害時においても系統電力に依存することなく、昼夜を問わずに家電を利用できる。

 こうした分散型エネルギーや蓄電池設置等のサービスを普及させることにより、緊急時の電源確保など、近年多発している災害に対するレジリエンス(強靱性)強化に貢献するとともに環境意識の高まりにも応えていく。

電気新聞2020年9月28日