会見で電力政策への提言を発表する中西会長
会見で電力政策への提言を発表する中西会長

 日本経団連は8日、電力政策への提言を発表した。エネルギー政策の原則である「S+3E」を確保し、世界の電力事業が向かっている3D(脱炭素化、分散化、デジタル化)に対応していくには、電力投資への好循環を創出する必要があると提言した。特に、利用拡大が求められる原子力発電や再生可能エネルギーは固定費の比率が高く、可変費ベースで価格が決まる卸電力取引市場では投資を回収する見通しが立ちにくいと指摘。投資を促す市場環境の整備が不可欠だとした。

 中西宏明・日立製作所会長が昨年5月に経団連会長に就任して以降、電力政策に特化した提言を示すのは初めて。8日午後に都内で会見した中西会長は、電力投資が活性化する仕組みの構築へ「早急に手を打っていく必要がある」と強調した。経団連は提言を基に関係各方面への働きかけを強化する。

 提言では全面自由化に伴う競争対応、原子力再稼働の遅れ、系統電力需要の減少懸念などを背景に、発電・送配電設備や研究開発などの電力投資で危機的な停滞が続いていると指摘。現状を放置すると、3Dへの取り組みが難しくなるだけでなく、電源の安全性を前提にした安定供給、経済効率性、環境性(S+3E)のバランスも保つことができず、国民生活や産業に負の影響が広がるとの認識を示した。

 電力投資の確保には、日本の電力システムの将来像を示すことが必要と強調。次の第6次エネルギー基本計画で2030年以降のシナリオを複線的に描くことが重要だとした。経済活動量の拡大などで電力需要の基盤を確保することも望まれるとした。

 再生可能エネルギーはFIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)の抜本見直しが急務だが、引き続き政策的な補助が必要な部分はFIP(フィードインプレミアム)制度を活用するのも一案だとした。ただ、可能な限り迅速に、補助から自立した形での市場売電が求められるとした。

 原子力は脱炭素化を目指す上で不可欠なエネルギー源だとし、既設炉を迅速に再稼働する必要性を強調。リプレース・新増設も政府の政策に位置付けた上で、事業の予見可能性を確保することが重要だとした。

 送配電網は「S+3E」や「3D」を追求するためにも次世代化への投資が必要だが、現状は送配電事業者に投資の動機が働きにくいと指摘。託送料金制度に投資を促す仕組みを組み込むよう求めた。

 また、公益性が高い調整用電源や送配電網は投資資金を切れ目なく調達できるよう、財政投融資の活用を検討するべきだとした。

電気新聞2019年4月9日