2050年の長期視点からエネルギー戦略に対する提言を行った(10日、東京・霞が関)
2050年の長期視点からエネルギー戦略に対する提言を行った(10日、東京・霞が関)

 経済産業省は10日の有識者会合で、2050年の長期的視点を踏まえたエネルギー戦略の提言をまとめた。再生可能エネルギーについては「経済的に自立し脱炭素化した主力電源化」を目指すことを明記。原子力の依存度は低減しつつも、選択肢の一つとして有用性を担保する。いずれも電源構成にまでは踏み込まない。エネルギー転換と脱炭素化の姿勢を鮮明にする一方、複数のシナリオを用意しておくことで、将来のエネルギー情勢の不確実性に備える。

 同日開かれた「エネルギー情勢懇談会」で事務局が示した。今後、別の有識者会合で議論されているエネルギー基本計画や、パリ協定を踏まえた長期戦略の策定に生かされる見通し。

 提言では、50年の長期視点からは不確実性・非連続性の度合いが高まる点を強調。いずれか一つの手段に絞るのではなく、複数のシナリオ・選択肢で課題解決を図る方針を打ち出した。

 主要なエネルギー源ごとの課題や対応方針も列挙した。再生可能エネはFIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)に頼らず、経済的に自立した主力電源に押し上げることを明記。発電効率の向上に加え、蓄電池の低コスト化、送配電網の増強などを進めつつ、人材・インフラ整備にも早急に取り組むとした。

 原子力は再生可能エネの拡大を図る中で、「可能な限り依存度を低減する」との現行方針を堅持するものの、脱炭素化の選択肢として残す。東京電力福島第一原子力発電所事故の教訓を踏まえ、社会的な信頼の回復を前提として、人材・技術力の強化に着手する。小型モジュール炉(SMR)などを念頭に、安全性・機動性に優れた次世代炉を追求し、バックエンド対策にも継続して取り組む。

 火力もエネルギー転換や脱炭素化が実現するまでの過渡期における主力電源と位置付ける。ガス利用へのシフトを進め、非効率の石炭は段階的に減らす。海外での高効率化技術の支援や、二酸化炭素回収・貯留(CCS)と組み合わせた水素転換も促していく考えだ。

 このほか、従来の電源別のコスト検証から脱炭素化に向けたエネルギーシステム間でのコスト・リスク検証へと転換を図る。これに伴い、選択肢ごとの優劣や優先順位は最新の技術動向やエネルギー情勢を踏まえる必要があるため、新たなスキームである「科学的レビューメカニズム」で情報分析やデータ収集に努める。

 具体的には、化石燃料を輸入する際の地政学リスクといった情勢分析のほか、脱炭素化につながる国内外のあらゆる技術動向を検証。人的ネットワークの形成も担う。エネルギーに関するデータベースを構築し、一般への公開も進める。経産省・資源エネルギー庁が事務局を務めるが、他省庁との連携も視野に、今後詳細を詰める。

【2050年エネルギー戦略の提言骨子】
◆エネルギー転換で脱炭素化に挑戦
◆あらゆる選択肢を追求する全方位の複線シナリオ採用
◆再生可能エネルギーを経済的に自立した主力電源に
◆原子力は依存度低減も脱炭素化の選択肢に
◆石炭火力の発電効率向上、天然ガス火力への移行
 
電気新聞2018年4月11日