調整力を巡る検討課題と対応の方向性
◆長期相対に優位性も/同時市場の議論注視

 「想定通りだ」「やはり週間商品に(札を入れる)リスクは負えない」――。

 26日、電力需給調整力取引所(EPRX)は新商品の1次~2次(2)の約定結果を初めて公表した。4月1~5日はいずれの商品も未達に終わった。結果はある程度予想できていたため、市場関係者の受け止めはいたって冷静だ。 

 応札状況が改善されるかは当然、調整力を提供する発電事業者の行動が左右する。うかがい知るのは難しいものの、経済産業省・資源エネルギー庁と電力広域的運営推進機関(広域機関)が共同で実施したヒアリングの結果からは、発電事業者の“本音”が垣間見える。

 ある発電事業者は週間取引を行う1次調整力、2次(1)に課せられる「並列要件」に言及し、「揚水発電リソースは要件を満たすハードルが高く、供出が難しい」と答えた。

 揚水発電がこれらの商品で約定した場合、約定ブロックでは最低出力で運転しつつ、指令に応じなければならない。揚水は最低出力が50%程度と火力より高い。運用に制約がかかる一方、1週間先の見通しは立ちづらく、経済運用が難しいとの理屈だ。

 また、これまで調整力公募の電源Iに供出してきた調整力を含め既に相対契約を結んでいるため、全量を市場投入できるか分からないといった回答もあった。約定するかどうか不確かな市場を使うより、予見性のある相対でさばこうという思惑が見て取れる。

 相対契約には、小売電気事業者が発電事業者に通告することで受給する電力量を変えられる「通告変更権」が盛り込まれるケースがある。週間市場以降に行使されると、応札の障壁になりかねない。広域機関は「一番根深く、難しい課題」と話す。寄せられた意見については国とも連携しつつ、対策の要否を検討していく考えだ。

 ◇同時同量に穴が

 3次(1)でこれまで未達が常態化してきたことに関し、ある市場関係者は「計画値同時同量に穴を空けたくないという心理が働く。インバランスを出すリスクを考えると、明らかに余剰となる電源しか玉出ししてこなかったのではないか」とみる。

 需要の端境期である春や秋は、優先給電指令によって調整力の大部分を占める火力の出力が抑制される懸念もある。だが、調整力の過不足と需給調整市場の未達は分けて考える必要がある。

 今後、平常時の起動停止権が発電側(バランシンググループ)に移る。市場調達と余力活用のみになり、現状に比べ調整力は減少する。ただ、需給逼迫などの非常時にはその権限が一般送配電事業者に戻る仕組みだ。別の電力関係者は「『非常時』の宣言に説明責任は伴うが、平常時との運用の切り替えによって調整力不足は回避できる」と指摘する。

 それでは未達解消に手だてはあるか。複数の関係者が期待するのが週間商品の前日取引化だ。前日調達が実現すれば発電事業者の懸念は払拭され、玉が出やすくなるとの見方が多い。だが裏を返せば、システム改修が完了し、体制が整う2026年度までの少なくとも2年間は、調達不足が継続する恐れがあることを意味する。

 ◇火力止める動機

 発電事業を手掛けるある関係者は「電源IIが余力活用に移行すると、平常時に一般送配電事業者は発電計画に載っていない電源を使えなくなる。太陽光の発電量が増える時間帯は自社の火力を動かすインセンティブが働かない」と懸念を示す。

 電力の安定供給はもちろん、国が旗を振る再生可能エネルギーの導入拡大へ、調整力の重要性はますます高まっている。昨年8月からは卸電力市場と需給調整市場を同時最適化する「同時市場」の検討が進められ、その導入要否の判断が調整力確保の在り方に大きな影響を及ぼすが、いまだに全容は見えてこない。多くの参加者を呼び込み、魅力的な市場を実現し、活性化につなげられるか。試行錯誤はしばらく続きそうだ。(稻本登史彦)

電気新聞2024年3月29日