第四次産業革命や、Society 5.0という言葉に象徴される通り、IoT、AIなどのテクノロジーが、産業や世の中のあり方を大きく変えるという予測があちこちで見られるようになった。指数関数的に進展するテクノロジーは、電気事業やエネルギー産業のあり方を今後、どう変えていくのだろうか。電気事業の発展の過程(Utility 1.0、2.0)をたどり、その先にあるUtility 3.0とは何かを考える。
Utility 1.0 垂直一貫のビジネスモデルを構築
発明王トーマス・エジソンが自ら開発した白熱電球の普及を図るため、ニューヨーク市パールストリートに設置した中央発電所から半径1kmほどの顧客を直流配電線でつなぎ、電灯約1000灯をともしたのは1882年のことである。その後、ニコラ・テスラが発明した交流システムにより、高電圧の大容量長距離送電が実現した。エジソンの秘書であったサミュエル・インサルは、交流システムによってシカゴを拠点に事業規模を拡大し、1920年代には5カ所の大規模な発電所とシカゴ市内の95%にあたる80万軒を超える需要家を3万マイルの送配電線でネットワーク化することに成功した。
インサルの着眼点は、多様な顧客の需要を多数束ねることで発電所を大規模化し、かつ負荷率を向上させることにあった。交流により広域的にネットワーク化されたパワープール全体で需要と発電のバランスをとればよいため、規模の経済性が生まれて電気料金が下がり、さらに需要が拡大するという好循環が生まれたのである。インサルは計量器による従量料金制を導入し、電気事業の自然独占性から地域独占企業として料金規制を行うことも提唱した。このようにして確立された垂直一貫のビジネスモデルをUtility 1.0ということができる。
Utility 2.0 送配電を第三者に開放し、発電、小売り部門を分離
Utility 1.0は第二次産業革命の推進力となったが、20世紀末になると先進国を中心にその担い手であった地域独占の国営または民営電力会社の経営の非効率性が指摘されるようになり、すでに一定の送配電ネットワークが構築されていることから、これを第三者に開放することで、発電と小売分野の自由化が行われた。
これをUtility 2.0の時代ということができるが、発電事業者や小売事業者は、送配電事業者が提供する(1)送配電ネットワーク(2)パワープール全体の需給管理機能(3)スマートメーターのデータ――という3つのプラットフォームを利用して、自らの顧客に対するサービスを提供することになる。すなわちプラットフォーム提供者と、これを利用するサービス提供者が分離(アンバンドル)される形となる。
Utility 3.0 技術革新が他のプラットフォームとの融合をもたらす
わが国もこれからUtility 2.0の時代を迎えることになるが、急速に進展する分散型電源や蓄電池、そしてデジタル技術など新たなテクノロジーにより、早くも次のビジネスモデルへの変革を迫られつつある。例えば、蓄電技術とデジタル技術の進展で、電気自動車やドローンなどが動く分散型蓄電池となって、運輸システムと電力システムが融合していく可能性がある。Utility 2.0で一旦分離されたプラットフォームが、他産業のプラットフォームと連携したり融合していくようになると考えられるのである。次回以降、その具体的な姿について解説していく。
【用語解説】
◆Society 5.0
政府の第5期科学技術基本計画の中で提唱された概念。デジタル技術を最大限に活用し、サイバー空間と現実世界を高度に融合させることで、人々に豊かさをもたらすとしている。
◆負荷率
平均電力の最大電力に対する比率。負荷率が高まれば、発電所の設備利用率(=年間発電電力量(kWh)÷(設備容量(kW)×8760時間))を上げて発電コストを低減できる。
◆パワープール
電力ネットワークを広域的に連系させると、あたかも大きな貯水池のように広域で需要と供給が一致すれば全体のバランスがとれることから、これをパワープールと呼ぶ。
電気新聞2017年11月6日