<<第1回から読む
エネルギーを巡る環境は激変しており、事業者も従来の延長上にない非連続な進化を迫られつつある。その主要因は、自由化(Deregulation)、脱炭素化(De-carbonization)、分散化(Decentralization)、デジタル化(Digitalization)、人口減少(Depopulation)の5つに集約できる。頭文字をとって「5つのD」と呼ぶことができるだろう。
自由化が起点。地球環境対応には電化が重要に
【自由化】 Utility 1.0が2.0へと変化する過程では、エネルギーの需給バランス調整が原則として市場経済に委ねられるというパラダイムシフトが起き、今後の変革の起点となる。
【脱炭素化】 2015年のCOP21で採択されたパリ協定では、今世紀後半に実質的な二酸化炭素(CO2)のネットゼロエミッションを目指す方向が合意された。目標達成には需給両面でのイノベーションが前提となる。
需要側では(1)最終エネルギー消費における化石燃料使用の電気・水素・バイオマス燃料による代替(2)化石燃料消費の場合の二酸化炭素回収・貯留(CCS)処理――という手段が必要となるだろう。供給側では2次エネルギーである電気の生成には再生可能エネルギー・原子力・CCSなどの技術を活用することが必要となり、水素を使う場合も脱炭素化された電気から生成することになる。
再エネの発電原価が火力に近づく。デジタル化が新産業創出へ
【分散化】 Utility 1.0の基盤は大規模発電所で大量の電気を発電、遠距離大容量送電により消費地まで届ける大量生産システムであった。分散化とは従来の大規模電源中心であった電力システムの中に、太陽光発電などに代表される小規模の分散型電源(DER)や蓄電技術が普及していくことを言う。DERには通常、需要場所に設置される化石燃料を用いた自家発も含まれるが、ここではもっぱら再生可能エネルギーを指す。
DERの特徴は、発電過程においてCO2を発生しないこと、化石燃料のような枯渇の心配がないこと、燃料費がかからず限界費用がほぼゼロとみなせること、発電量が気象条件により変動することなどである。太陽光発電や風力発電、蓄電技術は我が国ではまだ高価であるが、各国において指数関数的なコスト低減が持続しており、補助金なしにDERの発電原価が火力発電所の燃料費に近づくケースも出現している。
【デジタル化】 IoT(モノのインターネット)について日本の経営者の多くが業務効率化や生産性向上のツールとしてしか評価していないとの調査がある。しかしIoTは顧客の望む成果やサービス提供効果の定量把握に活用可能であり、ビジネスをモノからコトへ、すなわち手段の提供から成果や顧客体験の提供へと変化させる要因となる。例えばGEは、航空機エンジンを飛行中にモニタリングし、着陸後のメンテナンスのための手配を合理化して運行遅延による損失を減少させたり、燃料効率を向上させる手段を提供するようになった。このように新しいビジネスが創出され産業構造を変える可能性がある。
【人口減少】 日本社会は世界が経験したことのない縮小に向かっている。2040年には全国の市町村の半数の存続が危ぶまれ、2050年には全国6割の地域で人口が半分以下になると予測されている。人口が減少した地域では、行政サービスやインフラを従来のレベルで維持することが困難となる恐れがある。
これらの大きなトレンドから導かれるエネルギー産業の姿を、次回以降解説する。
【用語解説】
◆COP21
国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議。1997年の京都議定書に代わる2020年以降の温室効果ガス排出削減等のための新たな国際枠組みを定めるための議論が行われた。
◆二酸化炭素回収・貯留(CCS)
火力発電所や大規模工場などで大気中へ排出されているガスからCO2を分離・回収し、1000メートル以上深い地層に送り込み長期間にわたり貯留する技術。
◆限界費用
発電事業の場合、発電所の設備投資・維持費用を所与とすれば、限界費用は概ね1kWhの発電に必要な燃料費に相当。
◆顧客体験(ユーザー・エクスペリエンス)
製品・システム・サービスなどを利用することによって得られるユーザーの受け止めや反応のこと。UXと略す。
電気新聞2017年11月13日