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「5つのD」(自由化、脱炭素化、分散化、デジタル化、人口減少)というメガトレンドによりエネルギー産業はUtility 3.0への進化を迫られている。その核となるのは、脱炭素化に向けて必然的に生じる分散化と電化の同時進行、すなわち需給両面におけるエネルギーシフトである。さらにデジタル化によって消費者ニーズの「所有」から「利用」への変化が後押しされることで、家計から電気代が消えていく。
脱炭素化に向けて再エネの普及と電化が進む
まずUtility 3.0の全体像を顧客側から見てみよう。分散型電源(DER)のコストが指数関数的に低下した場合、我が国でも今世紀中葉までには大規模集中電源と太陽光・風力などのDERが同様の割合となるポテンシャルがある。DERの普及によって、多くの需要家のプロシューマー化が進むが、比較的数の少ない大規模電源による大容量の電力取引と、分散型電源による小規模だが無数の取引を併存させるために、プロシューマーやDERを束ねるリソースアグリゲーターが活用する分散型エネルギー取引市場が形成され、大規模エネルギー取引市場と相互に連携する。
需要サイドでは、同時に電化が進む。我が国では人口減少と省エネルギーの進展に伴って電力需要が漸減しているが、脱炭素化を契機とする運輸・熱部門の電化により新たな電力需要が創出される可能性がある。車の内燃機関をモーターに、給湯器を燃焼器からヒートポンプに置き換えることにより、エネルギー消費効率はそれぞれ4~5倍程度となるので、陸上交通を全て電化し、給湯などの熱需要をヒートポンプに置き換えるなどの電化を進めて、原子力と再エネを全体の65%を賄うまで拡大すれば、70%程度の二酸化炭素(CO2)削減が見込める。この過程で最終エネルギー消費は現在の約半分まで減少するが、電力消費は現在よりも25%程度増加する。
デジタル化により生活面でも「体験型」化が進行
デジタル化は消費者に対する様々なサービス提供とサービス利用に対する課金を可能とし、消費者の「所有」から「利用」へのシフトを後押しする。消費者はエアコンなどの設備を所有せずに「部屋を快適な温度・湿度に保ってくれる」サービスを購入するようになり、同時にエアコンなど設備が使う電気(kWh)も購入しなくなるので、将来的には家計から電気代が消えるだろう。顧客に電気を販売する電力小売事業は縮小し、代わりに顧客体験(UX)を提供する「UXコーディネーター」が現れてくる。
電力供給事業者はUXコーディネーター向けに、エネルギー取引市場から最適な電気の調達を行ったり、価格変動リスクを固定化したり、設備の故障に対する保険を付けるなどが主な業務となる。その業務の多くは人工知能(AI)化されると予想され、フィンテックが進んだ後の金融に近い事業となるだろう。
またUXコーディネーターと電力供給者の間では、現在のような建物単位での契約と取引ではなく、設備もしくはデバイス単位の電気の取引が必要となる。例えば電気自動車などは場所も移動する。このためデバイスに内蔵されたセンサーの値を読み取ったり、誰の設備であるのかの認証を行うなどの仕組みが必要となる。IoT(モノのインターネット)やブロックチェーンなどのデジタル技術が、このような電力小売りの再定義に必要となる。
DERについても消費者が所有しないと考えれば、リソースアグリゲーターが、ITを活用したDERのエネルギー需給管理にとどまらず、設備の運転・保守やリースサービスなどを提供するようになるだろう。
【用語解説】
◆プロシューマー
未来学者アルビン・トフラーが提唱した概念であり、生産者(producer)と消費者(consumer)を組み合わせた造語。生産活動を行う消費者のことをさす。
◆リソースアグリゲーター
多数の分散型電源(DER)を束ねて、仮想的な大規模発電所として運営することで、小売事業者に電力を卸したり、送配電事業者に系統安定化サービスを提供する事業者。
◆ブロックチェーン
分散型台帳技術であり、ブロックに一定時間の取引を記録し、これをチェーンのように連鎖させることで一連の取引データを記録するデータベースである。改ざんしにくく、取引コストを大幅に削減できる。
電気新聞2017年11月20日