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 2017年の東京モーターショーでは、日独の自動車メーカーや部品メーカーが電動化と自動運転技術を競っていた。既存メーカーに加えてGoogleなどIT企業やUberなどの新興企業も、新たに創出される市場への参入を狙って大規模な開発投資や、スタートアップ企業の積極的なM&A(企業の合併・買収)を行っている。電気自動車(EV)の普及は移動する分散型電源(DER)の大規模な普及としての意味も持ち、産業間の融合の起点となっていく。

Utility3.04回目1

 

自動車は、EVへ、そしてコネクテッドカーへ

 
 急速にEVが脚光を集めつつある。既に1回の充電で300キロメートル以上の走行が可能なEVが登場しているが、蓄電技術の指数関数的なコスト低減が続けば、いずれ内燃機関からモーターへの大規模な置き換えが進むと考えられる。さらに日米独の自動車メーカーに加えて、シリコンバレーやイスラエルのスタートアップ企業で自動運転技術の開発が進められている。次世代自動車はIoT(モノのインターネット)によりインターネットにつながり、自動運転のためのセンサーと頭脳を持ち、モーター駆動されるロボットであるとみることができる。車は所有する時代からシェアする時代に移行し、スマートフォンのアプリで呼べば自動運転のEVが充放電ステーションから家まで迎えに来て、最適経路選択のアルゴリズムによりスムーズに目的地までヒトやモノを運んでくれるようになる。
 

電力系統と道路が、充放電ステーションで複合インフラに

 
 EVを分散型蓄電池を持つロボットと考えれば、電力グリッドのニーズに応じてDERの余剰が生じている時間帯や場所で充電したり、逆に電気の足りない時間帯や場所では放電して非常電源の役割を果たすように機能させることも可能だろう。この場合、電力グリッドと運輸ネットワークという2つのネットワークが、充放電ステーションという結節点を介して複合インフラとして機能することになる。電力グリッド側の需給や混雑を考慮にいれたEVの最適経路選択により、再生可能エネルギーの変動を吸収したり、電力グリッドの稼働率を上げて設備をスリム化する効果も期待できる。

 電力グリッドの状況を織り込んだ経路選択を実現するため、充放電ステーションの使用料を時間・場所によって動的に変えるダイナミックプライシングが適用されると考えられるが、その際にEVの認証や課金などの取引を自動で処理する仕組みとして、ブロックチェーンのような分散型取引の技術が活用される。このような分散型電力取引の基盤として、配電系統運用者(DSO)が電力グリッドや分散型電源などの現実世界をデジタルデータを基にサイバー空間上で再現したデータプラットフォーム(いわゆる「デジタルツイン」)を構築し、将来時点でのグリッドの混雑情報と取引の可否情報、価格情報などを提供することになると考えられる。
Utility 3.0 4回目2
 

大量に普及する分散型蓄エネルギー装置は、電力系統運用の柔軟性資源

 
 このようにEVや熱分野におけるヒートポンプ給湯器の普及はエネルギー消費の大幅な効率向上に加えて、分散型蓄エネルギー装置の大規模な普及という側面を持ち、出力が一定の原子力発電や出力が自然変動するDERの増加の一方で、火力発電の減少によって希少となる柔軟性資源としての活用が期待できる。

 電化と分散化の同時進展は、需要サイドの高効率化と供給サイドの脱炭素化の掛け算によって大幅な二酸化炭素(CO2)削減を可能とするだけでなく、DERの電力システムへの統合を容易にするというシナジー効果によってエネルギーシフトを加速していくことになる。

【用語解説】
◆自動運転技術
米国のSAEインターナショナルでは自動運転の程度をレベル0~5と定義している。通常の乗用車をレベル0、どのような条件でもドライバーが不要なレベルをレベル5としている。現在の市販車は人が主体の部分的な自動運転(レベル2)だが、多くの自動車メーカーでは2020年ごろに車が主体となるレベル3以上の実用化を目指している。

◆柔軟性資源
電力システム内の需要や再エネの変動を補って需給をバランスさせるために、送電系統運用者(TSO)が調達する需給調整力を有する電源などを指す。現在は火力発電や揚水発電が主な柔軟性資源であるが、再エネの導入可能量を増加するためには、需要サイドのDERや蓄エネルギー装置の活用など手段の多様化を含めた柔軟性向上が必要である。

電気新聞2017年11月27日

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