<<第4回から読む
社会の脱炭素化を契機とする電化・分散化は、需給両面での大きなエネルギー・シフトをもたらす。その結果、車やドローン、ロボットなどの様々な装置(デバイス)が電気や蓄電池によって駆動されるようになり、社会の サイバー・フィジカル・システム(CPS)化を進めることになる。Utility 3.0はCPSを形づくる様々な産業との連携や融合を通じて、第4次産業革命を支える社会基盤となっていく。
再エネや原子力の活用を促すIoT
電化と分散化の同時進展が、エネルギー利用の高効率化と供給面の脱炭素化を進めることによって、化石燃料消費と二酸化炭素(CO2)の大幅な削減を可能とする。これに加え、IoT(モノのインターネット)によって、分散型電源や電気自動車(EV)の蓄電池などのデバイスのシェアリングが可能となり、間欠的な供給源である再生可能エネルギーや、ベースロードとして出力が硬直的な原子力の活用が容易となるという好循環が形づくられる。
IoTは第4次産業革命をもたらすと言われているが、根幹にあるのは「サイバー・フィジカル・システム(CPS)」と呼ばれる考え方である。CPSでは実世界の状態を様々なセンサーで計測し、これらから得られるデータをコンピューター上のサイバー空間で処理した結果をもとに、モーターなどの駆動装置を制御して実世界で最適な状態を実現しようとする。政府の唱えるSociety 5.0では、社会のあらゆる活動がCPS化されることで相互に連携され、社会全体として大きな価値をもたらすとされている。
これから進むエネルギーシフトと合わせて考えてみれば、実世界に置かれるセンサーやモーターなどの駆動装置と、その頭脳に当たるサイバー空間のほぼ全てが電気によって駆動されることになる。エネルギー・システム自体もIoT化が進んで一つのCPSとなるが、運輸システムや他産業のCPSと融合させて社会全体を最適化するように設計・運用することで、より大きな価値を発揮するようになる。電化は工場における大量生産を可能として第2次産業革命をもたらしたが、Utility 3.0は他産業との融合を通じて第4次産業革命の基盤となると考えられる。
我々の試算では、Utility 3.0の実現によって、2050年までに国内最終エネルギー消費は半減し、そのうちの70%が電気となる。つまり第4次産業革命が実現するのは電脳・電動社会であると言うこともできるだろう。
社会の縮小はインフラ統合による最適化を急がせる
一方、人口減少により日本社会が過去に経験したことのない縮小に向かって行く中で、過疎地では経年劣化の進む道路・水道・エネルギーなどのインフラ維持が課題となり、地域社会の縮小(ダウンサイジング)を前提としたインフラの在り方について早急に検討を進める必要がある。将来の運輸システムと電力グリッドの相互補完的な活用による融合とそれに伴うダウンサイジングにとどまらず、送電鉄塔や電柱・洞道などのインフラを通信事業者とエネルギー事業者で今までに以上に相互活用して全体のインフラを縮小したり、インフラを管理・保守する人財の多能工化によって、地域にある様々なインフラを効率よく維持する工夫が求められるようになる。つまりインフラをそれぞれ単独の存在として見ずに、統合インフラとして最適化することが必要となるだろう。
このように考えるとUtility 3.0は、(1)分散型と集中型などエネルギー・システム間の融合(2)通信、物流(EV・ドローン)、水道、水素・ガスなどライフラインを支えるインフラ間の融合(3)デジタル技術による業界の枠を超えた融合(4)これらを支える人財の融合――をもたらすことによって、第4次産業革命の基盤を形づくっていくことになると期待されるのである。
【用語解説】
◆サイバー・フィジカル・システム(CPS:Cyber Physical System)
実世界のデータをセンサーにより収集・観測し、クラウド等のサイバー空間においてデータの処理・分析を行い、その結果得られた価値を実世界に還元する複合システムの全体を指す。
◆多能工化
複数の異なる作業や工程を遂行する技能を身に付けた作業者を多能工と呼ぶ。生産現場などを中心に、多品種少量生産や品種・数量の変動に対応し得る柔軟な生産体制の維持と生産性向上のために、組織人財を多能工として教育・訓練する「多能工化」が進められている。
電気新聞2017年12月4日