直流送電は、電気を効率的に「おくる」ことが主たる役割である。利用者側の視点で見ると、電気にはほかに、「つくる」「ためる」「つかう」の要素もあり、それぞれ、太陽光発電、蓄電池、デジタル・電子機器などが身の回りに既にある。これらを直流で「つなぎ」、組み合わせることにより、マイクログリッドや電力版のインターネットが実現できるかもしれない。今回は、「つくる」「つかう」「ためる」、そして「つなぐ」用途における直流の特長を考える。
 

交直変換の都度、損失が

 
 直流の設備や機器が増えている。「つかう」機能としてのLED照明や電子機器は、交流をACアダプターで直流に変換し利用する。「つくる」機能の代表格である太陽光パネルは、直流をPCS(パワーコンディショナー)で交流に変換しないと電力系統に連系できない。


 蓄電池の「ためる」機能は、天候次第で不安定な再生可能エネルギーの出力変動を吸収し需給バランスを保ち、負荷機器につなげてバックアップや防災対策を兼ねることもできる。蓄電池よりも少量であるが、コンデンサーも電気をためることができ、直流のまま蓄え(充電)、取り出す(放電)ので、直流機器との相性も良い。

 「つくる」「つかう」「ためる」の間では、直流・交流の変換を伴うことが多いが、変換の都度、損失が生じ、エネルギー効率の観点で課題が残る。直流ベースでそれぞれを「つなぐ」で組み合わせると、次のような特長が追加される。(1)電力変換回数の減少による低損失・省エネ化(2)回路・部品点数の減少による故障・トラブル頻度の低下と低コスト化(3)小型軽量・省スペース・省資源化と利便性向上(4)電圧差だけで制御可能かつ交流に必要な同期は不要で、相バランスや電圧維持、電力品質などの管理も軽減可能――の4項目だ。

 これらの機能・要素を統合すれば、マイクログリッドのような需給一体型エネルギーシステムが構築でき、かつ効率的な運用も可能になる。

 さて、最近、「エネルギー・インターネット」が提唱され始めた。この概念は、様々な種類の設備・機器・モノをつなぎ、エネルギーの効率や利便性を高めることである。これを実現するには、通信におけるインターネットと同様に同期補整、ファイヤーウォール・セキュリティー強化、またバイパスや迂回ルートの形成といったネットワークの自由度・柔軟性向上が必要になる。

 直流送電や周波数変換所のように、交流をいったん直流に変換することで、交流系統の同時同量の制約を部分的・一時的に緩和し、また、ある点に生じた交流のトラブルを全体に波及させない防御も可能となる。さらに直流は、入出力を多端子にでき、汎用的な接続のインターフェース/母線として利用できる。例えばデジタル端末のUSBのようなPlug―and―play(プラグ・アンド・プレイ)の電力供給が実現可能だ。
 

新たな付加価値も期待

 
 このように直流を使った「エネルギー・インターネット」を構築すれば、再エネの大量導入による需給バランスの不安定化(周波数変動)、電力輸送網の混雑や逆潮流、電圧上昇や電力品質悪化といった諸問題の解決や軽減に貢献できるだろう。

 パソコンは1980年代に登場した当時、スタンドアローンでの限定的な使用が多かった。その後、インターネットにつながることで、用途が飛躍的に広がったのはご存じの通りだ。エネルギー・インターネットにも、新たな付加価値創造やシナジー効果などが大いに期待できる。

【用語解説】
 ◆マイクログリッド 分散型電源や蓄電池、負荷を含んだ需給一体型エネルギーシステム。様々な管理手法、予測・分析ツールにより制御し、単一の集合体として機能させる。系統と任意に連系、解列、または並行して運転できる。

 ◆PCS Power Conditioning Subsystemの略。パワコンとも呼ばれる。直流出力を交流に変換し、電力系統に連系する。

 ◆Plug-and-play つないだら(plug)、ユーザーが何か特別なことをしなくても実行(play)できるという意味。パソコンに周辺機器やデバイスをつなぐ際、その間の設定を自動的に行う仕組み。

電気新聞2022年7月4日