次世代スマートメーターにおいて、現行スマートメーターの消費電力量(有効電力)のほかに、無効電力・電圧を計測項目に加え、10%程度以上の需要家データについて各5分値を活用できるようにするという仕様を織り込んだ。これは配電網の状態をきめ細かく把握し、電圧や設備容量に対する裕度をより適正に運用できるようにすることで合理化を図るとともに、太陽光発電や電気自動車(EV)などの導入可能量を拡大するためである。本稿では、その根拠となる検討事例とさらなる展望を述べる。

 配電網のこれまでの管理・運用は、変電所の出口において計測する有効・無効電力と電圧の値(30分~1時間値)によっている。一般家庭を含む低圧需要家においては、電圧を101±6Vの範囲に収めなければならない。上記計測情報から配電線に沿った電圧値を推定し、変圧器の負荷時タップ切替装置(OLTC)や自動電圧調整器(SVR)によって電圧の上げ下げを一律に行うことで、需要家の電圧を適正値に維持している。このような単純な方法で電圧を適正に保てたのは、電気の流れが変電所から需要家への一方向だったからだ。
 

電圧上下変動増す

 
 近年太陽光発電の導入拡大に伴い電気の流れが双方向化し、天候に依存して変動する複雑なものになっている。既に、局所的に電圧の上限逸脱が顕在化してきており、今後さらに太陽光発電の導入量が増え、また電気自動車など新たな大容量機器の普及が進むと、配電系統の電圧の上下変動の頻度・振幅が一層増し、電圧の維持管理や配電設備の容量内での運用が困難となることが想像できるだろう。

 これを踏まえ、我々の研究グループでは、配電網をデジタルデータでモデル化し、需要家負荷データを組み込んだ上で太陽光発電や電気自動車などの導入量を仮定し、年間シミュレーションによって電圧逸脱量や配電線損失、設備裕度などを地点ごとに時系列的に定量評価する手法とツールを開発した=図。太陽光発電の発電量については、気象衛星ひまわり8号が提供する地表1キロメートルメッシュの2.5分ごとの日射量データを基に算出する。需要家のエネルギーマネジメントシステム(HEMS)が2.5分ごとに消費電力量と電圧を計測しており、配電網側のEMS(GEMS)とデータ連携し、これによってGEMSがOLTCやSVRを制御する状況を想定する。需要家側と配電網側のデータ連携に効果が期待できれば、スマートメーターにおける数分粒度の計測にも有用性が見込める。

 図右下のグラフに、配電線全体のピーク需要に対して太陽光発電の導入容量を100%まで増やしていった時の電圧逸脱量の変化の計算結果を示す。この検討では、OLTC/SVRの制御パラメータを変電所情報だけで決定する従来手法と、前述した各需要家の電圧の2.5分値を使用して決定する改良手法で比較している。図から分かる通り、太陽光発電の導入量がおおむね40%を超えると従来手法では電圧逸脱が発生し、太陽光発電導入量が増えるにつれて顕著となるが、改良手法では100%まで電圧逸脱は見られない。この結果から、数分粒度の需要家電圧値をスマートメーターで計測して活用することで、太陽光発電導入による電圧の適正値逸脱を防止でき、導入可能量を拡大できることが期待される。次世代スマートメーター仕様では、設備構築費用との兼ね合いで「10%程度以上の需要家の5分値を活用」としているが、シミュレーションを併用して補完することによって、十分な効果が期待できる。
 

対策の事前評価も

 
 配電網のデータをデジタル化し、変電所や配電線の途中に設置される開閉器における計測情報と次世代スマートメーターが提供する計測情報を組み合わせると、配電網の電気の流れや電圧の分布、設備容量の裕度などを可視化することができる。このようなシステムを構築すれば、配電線ごとに各時間断面での状態や、所望の地点での月間・年間の有効電力・電圧の分布、それらの最大・最小値などを把握可能だ。さらにシミュレーション機能を搭載すれば、設備設定や運用の変更、蓄電池の設置といった様々な対策の効果を事前に詳しく評価できる。需要家リソースのフレキシビリティー活用による設備の過負荷や電圧逸脱回避など、再生可能エネルギー主力電源化の鍵となる需給一体の電力システムの構築・運用に向けても、強力なツールになるだろう。

【用語解説】
 ◆需要家リソースのフレキシビリティー
 需要家の蓄電池の充放電や電気の消費量などを電力システムの状況に応じて柔軟に制御できる能力。

電気新聞2022年1月24日