福島第一原子力発電所の廃炉技術をテーマに、全国の高等専門学校生がロボットの製作技術、アイデアを競う「廃炉創造ロボコン」(主催=日本原子力研究開発機構、廃止措置人材育成高専等連携協議会)。第5回目となる2020年度の結果が今年1月に発表された。新型コロナウイルス感染拡大を考慮し、事前に撮影した動画を審査する形式となった今大会には14チームが参加。審査の結果、東日本大震災、そして福島第一原子力発電所の事故から10年という節目の年に、地元の福島工業高等専門学校が悲願の最優秀賞を獲得した。
廃炉創造ロボコンは例年、原子力研究開発機構の楢葉遠隔技術開発センター(福島県楢葉町)で実際に競技を行っていたが、今回は動画での審査となった。参加チームは競技の様子やアイデア・技術のPRを精一杯詰め込んだ動画を作成して臨んだ。
福島高専チームへの取材と、入賞チームなどへのアンケートも含め、今回のロボコンの概要を紹介する。※福島高専への取材は緊急事態宣言発出前に実施
【課題概要】
前回大会と同じく、ペデスタル(原子炉圧力容器を支える土台)下部にある燃料デブリ(溶融燃料)の取り出しがテーマ。ロボットは遠隔で操作する。ロボットは直径24センチメートルのパイプを通り抜け、ペデスタルデッキを想定したプラットフォームに出る。そこからペデスタル下部に置かれているデブリを想定したレンガなどの模擬体を回収。そして最初の位置まで戻ってくるのが、与えられた課題だ。そして課題完遂だけでなく、実際の廃炉作業での課題を見いだし、アイデアを盛り込めるかも大きく評価される。
今回の変更点は、デブリを想定した模擬体が円錐形の物体など3種類に、プラットフォームが滑りやすい樹脂パレットになったことだ。また例年はペデスタルを模した大きなモックアップ(写真左)で競技を行っていたが、今回は各校が部分的にフィールドを再現し、ロボットを動かした。
ロボットは遠隔操作。各校は競技を行うフィールドを用意し、目視しないようにロボットを操作した。今回は動画撮影や映像編集も審査の肝となった。「初めての経験でとても難しく、とても長い時間を要しました」(福島高専・鳥羽広葉さん)と言うように、各チーム苦労したようだ。
各校の提出した審査用の動画や結果発表はYouTubeの廃炉創造ロボコンのチャンネルで見ることができる。
◇廃炉創造ロボコンチャンネル
https://www.youtube.com/channel/UCBa8hWwCAo1zbdyPnMUCAXQ
最優秀賞
■持てる技術を詰め込んだ完成度の高さ
福島工業高等専門学校 メヒカリ
※このサイト内では見ることができないので、youtubeに移動してご覧下さい
福島工業高等専門学校は第1回大会より参加し続け、念願の最優秀賞を獲得した。メンバー3人の内2名は前回大会にも参加。デブリ回収をして戻ってくることができなかった前回大会の悔しさを、今回のロボットに昇華させた。
ロボットの位置を把握するGUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェース)を開発するなど、限られた製作時間の中で持てる技術をロボットに詰め込んだ。取材に訪れた際も、一回でデブリ回収をする様子を披露してくれるなど、完成度の高さも見せてくれた。
同チームの武田匠さんは「福島高専に進路を決めた際、『1Fの廃炉』という大きな問題に対する興味が、1つの大きな理由だったので、(震災から)10年という節目に、それに携わることができて、いい経験になったと思います」と話した。冨樫優太さんも「この10年はあっという間でしたが、津波の被害を受けた海岸付近に目を向けると復興を成し遂げていることが分かりました。しかし、震災前の生活に戻ることのできない人もいるのも事実で、少しでも早くふるさとに戻れるようになってほしい」と思いを寄せてくれた。
■何度も見たくなる
熊本高等専門学校 ロボダーマ
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今までになかった蜘蛛型ロボットで「見ていて楽しい」と評価されたのは、熊本高等専門学校チーム。ぜひ動画で見ていただきたい。6本足で歩行し模擬体をつかむ姿は、生命感がありユニークだ。倒れてもスムーズに復帰することができるなど、完成度も高い。
■限られた時間で
大阪府立大学工業高等専門学校 Countach
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いずれのチームも、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で大会に向き合う時間が大きく制限される中、「ロボットの企画・製作」「操作の練習」「動画撮影・編集」を行った。デブリ模擬体の回収数が最も多く、スピード感のある競技が評価され技術賞を受賞した大阪府立大学工業高等専門学校、ロボット名「Countach」のチーム。
ロボコンは練習時間が最も大事だと「早くからロボット製作を完了させ、実験(操作訓練)に費やした」と話す。「ひたすら練習と改良に取り組んだ」という成果は、例年通りの観客を前にした競技でも大いに輝いたことだろう。
■こだわりが伝わって
神戸市立工業高等専門学校 おかえり(親機)、ただいま(子機)
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神戸市立工業高等専門学校は子機に搭載した伸縮アームなどが実際の燃料デブリ取り出し作業への適応可能性が高いと評価され、日立GE賞を受賞した。「こだわったアームが評価され、賞を頂いたことを大変嬉しく思います」とコメント。目指す最優秀賞に至らなくとも、こだわりや努力した点が評価されるのは良い経験になるだろう。
■共有して受け継いで
鶴岡工業高等専門学校 だだちゃ
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審査用動画の撮影・編集に苦労した甲斐もあって、動画を残すことに意義を感じているチームも多かった。昨年、最優秀賞を獲得した鶴岡工業高等専門学校チーム(写真)は、2連覇を目指したが優秀賞となり惜しくも次点。「去年は他高専との意見交換を行い、素晴らしいアイディアがたくさん得られたが、今年はそれがなく残念」としつつも、「プレゼン動画を参考に、来年度に活かせるアイディアやノウハウを後輩に伝えていきたい」と話した。仲間と動画を共有できること、繰り返し見て学べることなど、各校のアンケートには利点を見出すコメントも多かった。
■将来につながる経験
小山工業高等専門学校 Russell Belt Ⅵ
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小山工業高等専門学校のラッセルベルトは、前年見出した課題を克服し、アイディア賞となった。チームメンバーは改良点が評価され賞をいただけたのは嬉しいとしつつ、新型コロナウイルスの影響もあって、全てを出し切ることができず、改良だけとなってしまったと悔やむ言葉も。「次このような機会があったら一からロボットを製作して、工夫点や特徴を余すことなく発揮したい」と意気込む。
◇
30年から40年と非常に長い時間がかかるとされる福島第一原子力発電所の廃炉作業。廃炉創造ロボコンは、その廃炉に携わる世代の人材育成を目指し、2016年度から開催されてきた。過去の大会に出場した選手の中には、廃炉に関わる進路を選んだ人もいるという。廃炉関係の企業からも熱い視線が送られている。表彰式にあたり萩生田光一文部科学大臣は「柔軟な発想を持つ若い皆さんの力が必要不可欠」とし、「今回のロボコンを通じて、東京電力福島第一原子力発電所の廃炉に関心を持ち、日本や世界の未来を切り開くものづくりに挑戦する方が一人でも多く生まれることを強く期待しています」と話した。
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第3回:課題をクリアできたのは1チームだけ! 第3回廃炉創造ロボコンの勝者は?
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第4回:ロボットでデブリを掴み取れ! 高専生が挑む廃炉創造ロボコンが熱い
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