全国の高等専門学校生がロボット開発技術を競い合う「廃炉創造ロボコン」(主催=日本原子力研究開発機構、廃止措置人材育成高専等連携協議会)の第6回大会が2021年12月11日、開催された。本大会は東京電力福島第一原子力発電所の廃炉技術の開発をテーマとし、16年から毎年度開催されている。学生たちはサマースクールなどを経て、福島第一廃止措置の課題を見つめ、解決策を考え、自らの技術力をロボットに込める。大会を機に、廃炉関連事業に従事している参加者もいる。現在、昨年度最優秀賞を獲得した福島高専の学生と、大会協賛企業のアトックスが、福島第一原子炉建屋内の内部調査用ロボットを共同研究で開発しているそうだ。社会の実課題と自らの発想力・技術力を突き合わせる本大会は、エンジニアの卵である学生たちにとって、貴重な経験の場にもなっている。

 昨年度の大会は、新型コロナウイルスの感染拡大を鑑み、動画審査によるリモート開催となったが、今回は選手たちが集まり成果を披露することができた。日本原子力研究開発機構の楢葉遠隔技術開発センター(福島県楢葉町)を舞台に、アイデアと開発技術を披露した選手たちの姿を紹介する。

 

新たに挑むのは除染


 前回までの3大会で行われた競技テーマから内容が変更となった。今回は、福島第一原子炉建屋内にある高線量エリアでの除染。写真中央の赤い枠内にロボットを設置し、競技がスタートする。障害物やスロープが設けられた通路を進み、高さ2.7メートルほどの壁面上部にある高線量部分を除染する想定だ。除染作業は指定したエリア(模造紙)をペンで塗りつぶすことで評価する。競技時間は10分間。選手たちはフィールド横の青いパーティション(写真左)の中から有線で遠隔操作する。

 

優勝は小山高専


 今大会は全国12高専から13チームが参戦した。競技の結果、小山工業高等専門学校のチームが最優秀賞(文部科学大臣賞)に選ばれた=写真。広い除染面積、ボックス型に収めたコンパクトで完成度の高いロボットが評価された。手にしているのはロボットが塗りつぶした模造紙。緻密な線は、努力の賜物だ。

 

安定した動きに感心


 「最初、大まかに自動で塗り、塗れていない部分は手動で動かし、適宜埋めていった」と言うように、重ね塗りをしてムラを消していった小山高専。ペンの角度をコントロールするサスペンションがうまく機能し、線をまっすぐ、太く描けたと、自ら評価。安定した動きで黙々と塗りつぶす姿に、観客もうなり声を上げて感心していた。

 

製品レベルの完成度


 小山高専が「なめらかに安定した走行だったので、教えてもらったりした」と感嘆していたのが、茨城高専(写真)の移動機構。審査でも「製品レベルの完成度である台車の高い技術力」と評価され技術賞(原子力機構理事長賞)に選ばれた。お互いの優れた点をすぐに学び合えるのも、現地開催ならでは。

 

準備にもスムーズな動き


 上位入賞校は、準備の動きから洗練されているように見えた。写真は競技直前、指さし確認で最終チェックを行っていた茨城高専。練習を繰り返す中で、重要な部分を把握し「(そういった点を)中心に点検していくことで、確実に動くことができるよう」臨んだそうだ。競技結果としては惜しい部分もあったが、一回勝負の競技は、かけがいのない経験になっただろう。

 

ケーブルマネジメントと意外な強敵


  競技のテーマである廃炉作業は、厚い遮へい物の中で行われると想定されるため、有線でロボットを動かす。ケーブルのマネジメントはとても重要なポイントだ。写真の大阪府立大高専は、「ケーブル敷設機構」を設け、ケーブルを床に固定しながら走行することで、トラブルを回避した。緩やかに見えるスロープも強敵だ。高所作業が課題の今回、ロボットの背が高く、バランスを保つのが難しくなる傾向にあった。

 

描線に込められた発想


 競技でクライマックスとなる除染作業(ペンによる塗りつぶし作業)は、個性が光る。「指定範囲が狭すぎる」と言わんばかりの作業を見せてくれたのは旭川高専。最初は往復運動で塗ることを考えていたが「ロボットは動き続けている時の方が速いので、速さを重視すると回る機構だと思った」と理由を話してくれた。除染面積も5割以上を達成し、アイデア賞(国立高等専門学校機構理事長賞)にも結びついた。

 

遠隔操作の難しさ


 選手たちはパーティション裏から遠隔で操作するため、観客はモニター越しにその姿を見守った。熊本高専(写真)のメンバーは高専ロボコンに参加するロボコン部に所属するそうで、遠隔操作に独特の難しさを感じたと語ってくれた。「高専ロボコンはフィールド全体を見渡せるのに対し、廃炉ロボコンはロボットに搭載したカメラを介してでないと現場を見られない」。実際の現場で活躍する遠隔ロボットの難しさを痛感していたようだ。

 

こだわりを詰め込んで


 卒業研究の一環として参加し、「自分たちがそれぞれ作ったものを融合して、実際に使えるか検証した」という大阪府立大高専。「基盤も自作しました」と、競技後に紹介してくれた。他の参加者たちも、見えるところから見えないところまで、持てる技術を詰め込んだ。3Dプリンターなどの製作機器から一つ一つの部材、プログラミングに至るまで、数々の選択と工夫をして、本番を迎えていた。

 

地元の熱い思い


 今回の大会では競技終了後に、記者が質問をする機会が設けられた。ロボットを思うように動かすことができなかったが、地元からの出場の思いを語ってくれたのは福島高専の選手たち=写真。「廃炉をより身近に感じている。そこで厳しい環境で動けるロボットを作製したい」という思いから、悔しさもひとしおだったようだ。

 

今後の「糧になる」


 ロボットが止まり競技を中断した富山高専。除染の機構を見せようと工面した。学校でうまく動いても、競技会場との違いや、搬入のための組み直しなどで、ロボットの状態は大きく変わる。審査員を務めた東京電力ホールディングス福島第一廃炉推進カンパニーの石川真澄理事は「現場合わせは非常に大切。我々の現場でも現場合わせを毎日やっている。今日はそれを実感できたのではないか。これは新たな糧になる」と閉会式の講評でエールを送った。

 本大会の様子は動画サイトYouTubeの廃炉創造ロボコンチャンネルで公開されている。

 大会運営の中心となっている福島高専の鈴木茂和准教授は「新しく参加するチームが減っているので、今まで参加していない学校に参加してもらいたい。その参考にしてもらえば」と話す。廃炉創造ロボコンは、来年度も同じ課題で開催される予定だ。

2021年12月28日