送配電事業が環境変化への対応を迫られている(写真は50万V基幹送電線)
送配電事業が環境変化への対応を迫られている(写真は50万V基幹送電線)

 何も手を打たなければ、送配電網の維持に必要な資金が足りなくなってくる――。

 電力の安定供給に関わる根本的な問題が、国内の送配電事業をじわりと覆っている。送配電事業者の収入となる託送料金は、電力系統を流れる電力需要の減少で先細る可能性が出ている。その一方で、送配電事業者の支出が今後大きく増える要因があらわになりつつあるからだ。
 

電力需要の伸び率0.2%。鈍る需要と迫る大量更新

 
 「東日本大震災が電力需要の分岐点だった」(電力業界関係者)。家庭や企業で節電・省エネが定着し、需要はじりじりと下がった。2016年度からやや持ち直したが、電力広域的運営推進機関(広域機関)の想定では、18年度から関西と四国の両エリアでは再び低下に向かう。日本全体でも10年後までの年平均伸び率は0.2%と鈍い。その先も少子高齢化・人口減少といった電力需要の減少につながる構造的な要因が横たわる。電化が進むとの予測もあるが、効果は未知数だ。

 その半面、送配電事業で必要な支出は増えそうだ。震災後、FIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)の導入を機に、太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーが急激に拡大し、現在も発電事業計画があちこちで持ち上がっている。

 その結果、発電所を電力系統に接続するための送電網の増強プロセスが各地で動いている。さらに、今後は高度成長期に建設した大量の送配電設備が、本格的な更新の時期を迎える。

 収入である託送料金の先細りと、送配電網の維持・建設に必要な費用の増加という“二重苦”の状態。これまで通り送配電網の維持・建設費を確保するためには、託送料金の単価を引き上げることも方策だ。ただ、託送料金は電気料金の2~3割を占めている。小売り全面自由化という競争環境下で電気料金の低減が望まれていることも考えれば、簡単には上げづらい。

 託送料金を引き上げても根本的な解決にならないかもしれない。太陽光など分散型電源の電気を住宅・施設で自家消費する動きが加速する可能性があるからだ。そうなると、送配電網を流れる電気はより使われなくなり、託送料金制度そのものの在り方を考えないといけない。発電事業者を含んだ託送料金負担の適正化(リバランス)も一つの選択肢だ。
 

急増する再エネの受け入れで、需給バランスに影響も

 
 こうした将来の設備形成を巡る課題に加え、送配電事業者は再生可能エネルギーの急拡大などで系統運用面の難しさにも直面している。送電網の容量制約がある中で再生可能エネルギーの受け入れ拡大を検討しつつ、出力変動に対応した需給バランスの維持などに苦心しているのが現状だ。火力発電などの出力調整用電源を増やす必要もあるが、逆に稼働率の低下で採算が危ぶまれている。

 容量市場や需給調整市場など新市場の詳細設計も議論が繰り広げられているが、電気事業の制度が複雑になる一方で、それが本当に機能するかはまだ見えない。むしろ配電系統では分散型電源や蓄電池など需要家側のリソースに立脚し、新技術を組み合わせて、ビジネスを生み出そうという兆しも見え始めている。

 


 

 電気事業の構造が大きく変わりつつある。電力システム改革で制度が複雑になるだけでなく、電力市場のパイが大きく拡大する兆しがない中では多くの課題が横たわる。その一方で、民間プレーヤーはいかに成長を確保していくかを考えなければならない。新シリーズ「変化を追う」では、電気事業で起こりつつある様々な変化を取り上げていく。第1部は送配電事業をテーマに、現状の課題や事業者の取り組み、制度面の対応を追う。

 
(11月6日付電気新聞に掲載)
※第2回以降は電気新聞本紙または電気新聞デジタル(電子版)でお読みください