再生可能エネルギーの変動を吸収するために、蓄電池、電気自動車(EV)、ヒートポンプ(HP)給湯機などの需要家サイドのデマンドレスポンス(DR)が重要な役割を担うと期待されている。需要家が機器を利用する際の効用を犠牲にすることなく、効率的に経済的に制御する方法を検討するためには、需要の構造を把握し、制御による価値を定量化し、その費用対効果を分析する必要がある。本稿では、特に低圧リソースによるDRを評価するための解析ツールを紹介する。
 

潜在力高いが いまだ実証段階

 
 仮に1千万台のEVやHP給湯機が導入されれば、日本の最大需要1億5千万キロワット程度に対し、それぞれ3千万キロワット、1千万キロワットもの調整力として活用できるポテンシャルとなる。再エネ余剰電力の活用先としても、適切にこれらを管理していくことが重要であるが、日本における低圧リソースのDR活用は、実証段階にとどまっている。これは現時点で制御できる仕組みが実装された製品が少ないこと、マネタイズできる市場が未成立であること、制御コストが高いこと、などが主な理由である。


 筆者らは、需要家機器のDR価値評価ツールとして、建物1件の電気料金最小化を目的とする「ESIRE」モデル=図1=と、アグリゲーターによる市場からの調達費用最小化を目的とする「ESIA」モデル=図2=を開発している。いずれも、前日に、太陽光発電量や電力・給湯・EV需要などを予測し、24時間先までのコスト最小となる電池や貯湯槽などの運用計画を構築。当日は、計画値に基づき予測誤差を埋めるようルールベースで運転するものである。


 DR価値評価の際に重要なのは、建物の需要、EV走行量、太陽光発電量などを適切に模擬することである。需要家の属性に応じてその需要構造は多様である。現状日本では、特に自動車の走行に関するオープンデータなどが存在しない状況であり、多面的な評価を行うために、スマートメーターデータの活用などと合わせてデータ整備を行っていく必要がある。例えば、米国では、国立再生可能エネルギー研究所を中心に、自動車を含めた需要データのオープン化、ツールの共有化などが進められており、多くの研究成果が得られている。この点に関して、筆者らは、住宅メーカーの家庭用エネルギーマネジメントデータや実EV走行データなどに基づき、気象や年度、家族構成などの各種条件下における時間別の需要・発電データを構築するツールを合わせて開発し、信頼性の高い評価を目指しているが、利用できるデータの限定性を日々感じている。
 

制御の精緻化や効果の適切な評価を

 
 需要側リソースを活用したDRは、容量が小さく、需要家ニーズと系統ニーズの両方を満足するという制約があるため、現状の小売料金や市場制度下では、一台当たりの制御価値はそこまで大きくない。しかし、カーボンニュートラルに向けては、再エネ余剰電力やクリーンな調整力へのニーズが拡大し、さらに電化が進む。このため、需要側リソースの活用は必須であり、その制御価値は次第に高まっていくことが予想される。需給に連動した小売料金メニューによる自端制御の拡大、アグリゲーターによる制御の精緻化、通信を含めた遠隔制御における技術的課題の解決などが必要である。解析ツールにより、多様な需要に対する多様なDRリソースの活用の効果を適切に評価し、経済性が成立する条件などについて検討していくことが、将来あるべき電力システムや市場の制度の議論に資するものと考えられる。

【用語解説】
 ◆アグリゲーター
 需要家の電力需要や発電設備を束ねて、電力需給を管理する事業者。

(全4回)

電気新聞2022年4月4日