◇施工性向上、建設コスト低減へ/係留に工夫 新工法続々と
浮体式洋上風力発電では、1万キロワットで1000トン以上ある風車本体(ロータ、ハブ、ナセル、タワー)を海の上に安定して浮かべる必要がある。現時点で準商用化レベルにあるのは、釣の浮状の長円柱で重心を下げたスパー型、横に幅を広げて安定化を図るセミサブ型、およびその亜流のバージ型の3種である=図1。しかし、この3タイプにも工事の施工性や建設コストが高い問題が残る。より経済性の高い方式を目指し、世界中で多数の新方式(2024年のNOW=Norwegian Offshore Windの調査では104種類)が考案。係留方法やそれに伴う碇にも種類があり、経済性の高い方式が適用され始めている。
風力発電が広大な海洋に進出するに際しては、水深に応じて風車の支持方法を変える必要がある。海底まで基礎を伸ばす着床式では、重力式、モノパイル式、ジャケット式の順により深い海域に対応できる=図2。50メートルを超える大水深に1万キロワット級の風車となると基礎の重量が2千トンを上回る。重量はコストに比例するので、「それなら浮かべた方が安いのでは?」という発想から浮体式洋上風力発電が始まった。着床式の洋上風車据付で必須な賃貸料の高い建設専用船(Jack―up船)を使わずに済むという期待もあった。
◇クレーン船が不要
まず最初に実機レベル(出力1千キロワット以上)が設置されたのは、ノルウェーの大手石油会社のエクイノールが2009年に設置したスパー型のHywindNorway2300キロワット浮体式風車だ。スパー型浮体は形状が単純なので容易に製造でき、重心が低いので安定性も抜群だったが、喫水が大きい(約100メートル)ため埠頭で風車を浮体に搭載できない(載せると座礁する)という施工上の問題があった。
そこで浮体を大水深の海域まで曳航した後で、風車もクレーン船で持っていき合体させた。浮体もクレーン船も共に浮かんでいる状態での据付作業には風と波が平穏な気象条件が必須だった。この「風待ち」中もクレーン船の高価な賃貸料が掛かるので、工期が長期化して工事費用も増大し、経済的とはいえなかった。これは日本の国家プロジェクト(環境省の長崎五島2千キロワット、経済産業省の福島5千キロワット)も同様だった。
エクイノールはノルウェー固有のフィヨルド地形を生かしてこの問題を解決した。23年に運転を開始したHywindTampen(8600キロワット×11基、140キロメートル沖の海上油田に電力を供給)では、フィヨルドに面した採石場跡の岸から浮桟橋を伸ばし、その先端に浮体を係留(フィヨルドは水深100メートル以上あるので座礁しない)して、岸に置いた大型クレーンで風車を据え付けた。この方法なら「風待ち」による工期遅延のリスクは無く、高価なクレーン船賃貸も必要ない。ノルウェー政府は40年までに3000万キロワットの洋上風力発電(90%以上が浮体式)導入目標を掲げており、別の採石場(Jelsa)に浮体工場と出荷拠点港の整備を始めている。
◇コンクリを浮体に
スパー型の次に古いのは、米国のプリンシプル・パワー社が始めたセミサブ式浮体である。ポルトガル、英国、中国で6プロジェクトが運転中だ。風車を陸上で据え付けできる利点があるが、浮体の重量が重くなるので建造コストが高い。さらに造船所のドックで建造したが、ドックの長期占有は現実的でなく、商用展開する際の量産性に難がある。
この対策として登場したのが仏イデオル社のバージ型浮体である。波浪の穏やかな100メートルより浅い海域向けに、浮体中央の開口部(damping pool)と外部の海面の高度差で、波による浮体の動揺を抑制する仕組みである。17年のフロージェン2千キロワット浮体は、鉄筋コンクリート製でサン・ナゼール港の埠頭脇の台船上で建造された。一般にコンクリートは鋼鉄よりも安価でコスト的にも有利である。ただし、喫水線が長いので波浪荷重を受け易く、波浪の厳しい外洋での利用には課題が残る。
バージ型以外の新しい形式については次回掲載記事で紹介する。
電気新聞2024年6月17日