◆地層処分、信頼性向上に新技術

 名古屋大学や中部電力などの研究グループは、世界で初めて「球状コンクリーション」という化石ができる仕組みを応用し、岩盤の亀裂を長期間封止する技術を実証した。数週間~数カ月と短期間で透水性を大きく低下させ、その後も理論上は半永久的に維持可能。高レベル放射性廃棄物の地層処分に適用すれば岩盤の長期的な信頼性が高まるほか、二酸化炭素回収・貯留(CCS)など地下環境を使う幅広い用途で活用が見込める。

 球状コンクリーションは海生生物などの化石を核として主に炭酸カルシウムで形成された岩塊で、日本を含む世界各地で確認されている。名古屋大学の吉田英一教授、岐阜大学の勝田長貴教授らの研究グループはこれが短期間に形成される仕組みを解明・応用。吉田教授らは積水化学工業と共同で「コンクリーション化剤」の開発を進めてきた。

 コンクリーション化剤は岩盤亀裂に注入すると地下水と反応して炭酸カルシウムの結晶を形成し、高いシーリング(封止)効果を発揮する。これを実証するため、中部電力技術開発本部原子力安全技術研究所による「特定テーマ公募研究」の採択を受けて2021年度から5年間の研究に着手した。

 ◇幌延深地層研で

 実証試験の場を提供したのが、日本原子力研究開発機構の幌延深地層研究センター(北海道幌延町)だ。地下350メートルで行われた試験で、透水性が100分の1~千分の1に低下したことを確認。2年間の実証中にマグニチュード最大5.4の直下型地震が起こり一時的に透水性が上昇したが、その後速やかに再シーリングされたことも分かった。

 高レベル廃棄物の地層処分では、ガラス固化体をオーバーパック(金属製容器)に収め粘土状の緩衝材で覆うことで「人工バリア」を構成。さらに水を通しにくい地下深部の岩盤を「天然バリア」として多重で放射性物質を閉じ込める。ただ、地下岩盤には亀裂や隙間が存在し、掘削に伴う損傷も生じる。

 こうした課題に対応するのが数千年以上の超長期を想定したシーリング技術だ。コンクリーション化剤は元素の拡散・沈殿でシーリングするため、ごく微細な岩盤の隙間まで効果が及ぶ。一度結晶を形成した後も自然由来の成分と反応して持続的に成長し、新たに発生した亀裂や隙間にも対応できる。

 ◇メタンガスにも

 来年度まで続く実証で掘削などで影響を受ける前の「新鮮岩盤」並みに透水性が低下するかどうか検証する。中部電力はシーリング手法が「原子力業界全体にとって役立つ」と指摘。研究成果は5月に英シュプリンガー・ネイチャーが運営する科学誌「コミュニケーションズ・エンジニアリング」に掲載されるなど、専門家から高い評価を受けた。

 同手法はCCSのほか石油廃孔から発生するメタンガスの封止、トンネル周辺岩盤の地下水抑制、インフラの亀裂補修といった用途が想定され、原子力にとどまらない幅広い応用も期待される。

電気新聞2024年7月2日