前回は「俺のでんき」とニックネームした実験の様子をご紹介したが、最終回の今回は、電力のお客さまとなる充電ビジネスについて考えてみたい。EVの普及に充電インフラの充実は不可欠だが、これを事業として成り立たせるにはなかなか難しい問題がありそうだ。今回は、充電ビジネスをコーヒーショップや携帯電話事業など身近なビジネスと比べながら、課題の所在を明らかにしたい。
 

現状では喫茶店より厳しい採算性

 
 充電スタンドを街中のコーヒーショップと比べてみよう。まずは、充電スタンド。連載第1回の体験によると、急速充電の30分で約15~16キロワット時の電気を調達した。一方、一般家庭の電気は、基本料金を含めておよそ30円/キロワット時で電気を購入している。この数字を30分の充電の実績に当てはめてみると、30円/キロワット時×16キロワット時=480円/30分となる。これが急速充電器1台というお店の売り上げである。

 コーヒーショップにおけるコーヒー一杯は380円程度としよう。カウンターでコーヒーを注文し、受け取るまで1~2分。要するに380円/2分の売り上げである。

 現実的ではないが、お客さんがひっきりなしに来ると想定しよう。そのような状況下では、売り上げは充電スタンド1台当たり=960円/時間、コーヒーショップ=1万1400円/時間である。24時間お客が列をなすことなどまずないし、CAPEXやOPEXなども考慮する必要があるが、この乱暴な単純比較では、充電スタンドはコーヒーショップよりもつらい商売である可能性がうかがえる。

 充電ビジネスの現下の問題は、充電に来るお客さん(EV)そのものがいないということである。しかも、充電に時間がかかり、時間当たりの売り上げも少ない。充電器をよりハイパワー化して、仮に半分の時間で充電できれば、時間当たりの売り上げは倍になる。しかし、根本的にはとにかくEVを増やすことだ。良好な再エネ親和性などSDGs的側面から考えても、EVは普及させるべき対象である。
 

携帯電話普及の道筋から、EV普及に向けた充電インフラ整備の方法を考える

 
 現在のEVは携帯電話の黎明(れいめい)期に似ているように思う。その昔、携帯電話は一般消費者には無縁のものだった。通信各社は、インフラを整えるとともに販売店に猛烈な奨励金を出して拡販に努めた。奮闘努力のかいもなく合従連衡の波にのみ込まれていった事業者もいるが、今や電話といえば携帯電話を指し、固定電話の方がマイナーだ。

 EV普及のためには、ユーザーが充電に不安を覚えるようでは話にならない。とはいえ、経営を圧迫するインフラコストは極力低減する必要がある。充電インフラの構築には、銀行のATMの相互利用や、交通系ICカードのような自社営業エリア以外での相互利用、特急電車と普通電車の料金の違いのような、既存ビジネスの多様な工夫を取り入れる必要があろう=表。東京大学の野城智也教授は、充電施設用地として都心部の空き家など遊休資産の活用を提言している。
 

走行中の充電はどうか?

 

 ところで、充電スタンドという形態は適切なんだろうか。誰もが知る巨大ネット通販の物流センターでは、商品棚自体が作業者の元に次々に走って来て、効率的に荷造りが進むと聞く。いわゆる逆転の発想だ。ならば、経路充電は、走行中のEVに充電器が来たらどうだろう。自動運転技術を駆使した電源車が知らぬ間に連結され、充電が済んだら勝手に去っていくのだ=図。これなら第1回で述べた、充電のための停車による平均走行速度の低下もない。充電する電気は太陽光発電の余剰電力などをためた再エネ由来であれば申し分ない。

 最後に一研究者としての妄想を書かせて頂いたが、拙い連載をお読み頂いた読者各位にお礼を申し上げたい。

【用語解説】
◆CAPEX
Capital Expenditureの略。資本的支出のことで、具体的には減価償却費などを指す。

◆OPEX
Operating ExpenseまたはOperating Expenditureの略。いわゆるランニングコストのことで、人件費や家賃、光熱費など事業に必要な経費を指す。

◆SDGs
2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」で記載された30年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標のこと(出典:外務省HP)。

電気新聞2020年12月7日
 

(全4回)