◇ビットコイン採掘は電力浪費?/DER活用へ補完的役割も

 表題の心は、「両者ともカーボンニュートラル(CN)実現のために有効な技術」である。再生可能エネルギーはともかく、なぜビットコインなのか?再エネの大量導入を進める上で、出力制御と系統混雑が主要な課題として顕在化している。本連載では、「電気の無駄遣い」と批判されることの多いビットコイン・マイニングの特性を逆手に取り、柔軟に電力需要を創出可能なDERとして活用することでCNを推進する構想について、国内外の最新動向を踏まえながら、解説する。

 ◇系統混雑が妨げに

 九州エリアを中心に、春秋の電力需要が低い時期の晴れた日中の時間帯には、需給バランスの制約による太陽光発電の出力制御が頻発するようになっており、この傾向は全国に拡大しつつある。また、配電系統における系統混雑による再エネの連系制約も全国規模で発生しており、再エネの普及を妨げる一因となっている。

 前述の課題を解決するため、全国市場とお客さま設備を結ぶローカル階層に、需給と混雑を管理し、地域分散エネルギー活用を促す「分散エネルギー取引市場」を設立することについて、経済産業省の審議会にて検討が進められている。これは、地産地消を誘引する取引マッチングを行い、混雑状況を加味した価格シグナル等の情報を発信し、市場参加者(発電事業者・小売電気事業者・アグリゲーター等)が自律的に行動する仕組みによって、地域課題や系統課題の解決に貢献するという計画である。


 
 ◇柔軟な需要創出へ

 分散エネルギー取引市場が機能するためには、蓄電池、EV充電ステーション、水素製造等のDERの普及およびDERの制御を可能とするDERフレキシビリティーシステムの構築が必要となる。しかしながら、現状のDERは、コストの問題に加え、時間的・空間的に柔軟に需要を創出することが必ずしも容易でないことが、普及に向けての課題となっている。

 この課題解決に向けた有効な手段となり得るのが、電力をデジタル価値に転換する装置である分散コンピューティング技術である。その中でもとりわけ、時間および空間を選ばずに柔軟に電力需要を創出可能な、ビットコイン・マイニングが注目を浴びつつある。ビットコイン・マイニングとは、世界中に多数ある仮想通貨(暗号資産)の中でも最大の時価総額を有し、かつ理論的裏付けも高度に確立しているビットコインを支えるインフラ技術のことである=図1。

 プルーフ・オブ・ワークと呼ばれるプロセスを採用し、特殊なコンピューターを用いてハッシュ関数という暗号計算を膨大な回数実行するのだが、このときに大量の電力を消費する。このことが、「ビットコイン・マイニングは、電力の浪費」との批判につながってもいる。


 
 ところが、ツイッター社(現X社)の創業者であるJack Dorsey氏が会長を務める米国スクウェア社(現ブロック社)は、「ビットコイン・マイニングは、再エネと蓄電池の組み合わせに対する、理想的な補完関係となる」との、逆説的な論考を2021年に公開し、「電力浪費」批判に一石を投じた=図2。なお、これに先立つ20年、筆者は東京電力パワーグリッド在籍時に同僚とともに、ビットコイン・マイニングを用いた系統混雑緩和に関する特許を取得している。

 ビットコイン・マイニングが、なぜDERフレキシビリティーとして有効な技術であるかについては、第2回で解説する。

◆用語解説

 ◆分散型エネルギーリソース(DER) 分散して設置されているエネルギー設備のことで、発電設備、蓄電設備、需要設備の3種類がある。

 ◆分散コンピューティング 離れた地点に分散設置された複数のコンピューターをネットワークを介してつなぎ、膨大な演算を同時並行的に実行する技術のこと。

 ◆プルーフ・オブ・ワーク(PoW) ブロックチェーン技術に立脚した分散型台帳に、インターネット上で行われているビットコインの取引データを検証して記録する際に、膨大な量の暗号計算を実行することで、2重払いやデータ改ざんを防ぐ仕組みのこと。

電気新聞2023年11月20日