電柱や鉄塔を非代替性トークン(NFT)にするゲームの開発が進められている。NFTゲームでポイントとなるのが「Web3.0(ウェブ3)」の概念だ。ウェブ3ビジネスには詐欺やハッキングの多発、投機的利用といったネガティブな要素も多く、理想とのギャップが課題となっていた。電気事業という公益性がNFTゲームに加わることで、ウェブ3市場の健全な発展が促される可能性もある。(編集委員・濱健一郎)
「日本から世界に影響を与えていく。世界のウェブ3政策を変えるきっかけになる」。7月25、26日に東京国際フォーラム(東京都千代田区)で開催された「WebX」で、デジタル・エンターテインメント・アセット(DEA、シンガポール)の山田耕三・共同CEOは興奮気味に語った。
大きな期待をかけるのは、東京電力パワーグリッド(PG)、東電PGなどが出資するグリーンウェイ・グリッド・グローバル(GGG、シンガポール)と共同で開発する電力アセットNFTゲームだ。
NFTとは「唯一無二の価値を持つしるし」を意味する。それぞれのトークンはブロックチェーン技術によって代替不可能な価値が生じる。NFTはトークン経済圏で流通しており、自由に取引できる。
ゲームはNFTの代表的なユースケースの一つだ。歩くことによってトークンを獲得できる「STEPN」は爆発的にヒットし、NFTゲームの勢いを世に知らしめた。
◇価値上乗せ
電力アセットNFTゲームは、電柱や鉄塔に価値を上乗せするものだ。東電PG経営企画室経営戦略グループ兼海外事業推進室の平田直人氏は「電気を送ることが目的の設備が新しい価値を提供できる。非常に魅力的で可能性を感じた」と期待をかける。
ゲーム内では、電柱を撮影して「チェックイン」をすることで価値を所有できる。チェックインには1日当たりの制限がかけられており、課金をするとチェックインの回数を増やせる仕組みを検討している。これらの課金が広告とともにゲームの収益となる。
ゲームで獲得したNFTはDEAのプラットフォーム内でディープコイン(DEP)に交換できる。DEPはいつでも日本円に換金することが可能だ。山田氏は「宝探しのような気持ちで電柱を愛(め)でる世界が来る」と強調する。
NFTゲームの課題は持続可能性だ。STEPNはゲームに参加するために「デジタルスニーカー」を買う必要がある。経済産業省によると、スニーカーの価格は一時数万~十数万円に高騰。スニーカーに投機性が生じ、その後は価格の暴落などが発生した。
電力アセットNFTゲームは、こうした要素を極力排除する方針で、山田氏は「どれか一つの電柱が1億円になるようなことは考えていない」と話す。
◇投機でなく
NFTゲームは投資詐欺などに用いられるポンジスキームに類似しているとの批判もあることから、そうした要素とは無縁の公益事業が組み合わさる意義は大きい。経産省大臣官房Web3.0政策推進室の板垣和夏課長補佐は「持続可能で社会課題を解決するユースケースが多く出てくることは、ウェブ3の歩みを進める上で重要だ」と説く。
GGGの鬼頭和希・イノベーションマネージャーは、電力アセットNFTゲームの開発を「グロースリングスプロジェクト」と名付けた。鬼頭氏は「早い成長を追い求めるのではなく、木の年輪を一輪一輪刻むようなプロジェクトにしたい。関わる全ての人々が幸せになり、その結果として社会と環境に貢献するようなゲームを追求していく」と語った。
◆メモ
●NFTゲーム ゲームをプレーすることでNFTを所有・取引する。元祖は2017年11月にリリースされた「クリプトキティーズ」で、仮想猫を交配させて産まれる独自の遺伝的性質を持つNFT猫を売買。NFTゲームの火付け役となった「アクシー・インフィニティ」では、ゲーム内のNFTキャラクターを育てて強くし、売買する。ゲーム内取引で通貨のように使われるトークンは、現実世界の通貨と交換が可能。
電気新聞2023年8月18日
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