「脱炭素」「脱露」追い風
欧州でヒートポンプ機器の導入が急加速している。2022年の販売台数は約300万台となり、前年比38%増の伸びを記録した。EU(欧州連合)の脱炭素政策、ロシア産化石燃料からの脱却に向けた補助金などによる支援強化が導入を後押し。強みの省エネ性に由来する光熱費低減メリットも、ガス価格高騰に伴って拡大している。販売数は今後も勢いを落とさずに伸び続けていく見通しだ。(矢部八千穂)
欧州ヒートポンプ協会(EHPA)が2月下旬に示した市場調査によると、22年の販売台数は過去最高を大きく更新した。前年比34%増の約217万台で過去最高となった21年を大幅に上回る、記録的な数値となる。
国別では、フランスが21年比20%増の約46万台、ドイツが同53%増の約24万台、イタリアが同37%増の約50万台。ポーランドとチェコはほぼ倍増となるなど東欧が大幅に台数を増やしたほか、北欧も堅調な伸びを示した。
「ATW」が主力
ヒートポンプ機器の販売台数は、10年から14年までは80万台前後で推移。15年以降は増加傾向に転じ、近年は増加ペースがさらに上がっている。
販売されているヒートポンプ機器は、日本のエアコンのようなタイプや地中熱を熱源とするものなど様々あるが、この中でも特に伸長が著しいのがヒートポンプ式暖房・給湯機(エア・ツー・ウオーター、ATW)。販売台数が急拡大しており、国内外の空調メーカーも多くが生産能力の増強に乗り出している。
ヒートポンプ機器の販売が加速している主な要因は、温室効果ガス排出削減目標の引き上げや建物の省エネ水準見直しといったEUの脱炭素政策。これに連動して各国がヒートポンプの導入目標の設定や補助金拡充などの施策を具体化することで普及を後押ししてきた。
例えば、ドイツは24年に50万台の導入目標を設定。フランスは、超低所得層向けに設備導入時にかかる費用を9割補助するといった施策を展開している。
マイナス25度の環境下でも稼働し、65度の温水を安定的に供給できるなど、技術面の進化も導入加速の要因。導入できる建築物の割合が広がっており、今後の主要市場となることが確実視される既設建築物の改修需要などにも対応できるようになっている。
EUが22年5月に示したロシア産化石燃料からの脱却計画「リパワーEU」も大きな節目だ。ヒートポンプ機器の設置率を足元から倍増させる方針を掲げるとともに、今後5年間で新たに累計1千万台を設置する数値目標も策定。各国の導入に向けた動きをさらに加速させた。
今後のヒートポンプ動向について、ヒートポンプ・蓄熱センターで海外市場や技術動向の調査を担う国際・技術研究部の旭貴弘課長は「これで頭打ちではなく、今後もますます増えるだろう」と予測する。
要因には、明確な政策目標として示したリパワーEUの効果継続、欧州委員会がヒートポンプを気候変動目標の達成やエネルギー安全保障の確保に向けて必要不可欠と考えていることなどを挙げた。
設置体制が不足
課題もある。国際エネルギー機関(IEA)は22年に公表したリポート「ヒートポンプの未来」で、世界の主要市場はヒートポンプの普及に伴って設置事業者が不足すると強調。各国が補助金を拡充しているものの、ATWなどの初期導入費用は依然として従来の化石燃料を使ったボイラー式より高いことも指摘した。
こうした状況は欧州にも当てはまる。欧州でヒートポンプ機器が今後も着実に普及していくには、ボイラー事業者の再教育によるヒートポンプ設置技術の習得や設置技術者養成に向けた支援拡大、ボイラー式との価格差を縮小するエネルギー税制の整備などを進めていけるかが鍵を握りそうだ。
電気新聞2023年4月10日