◆基地に再エネ、原子力 大型計画

 九州電力送配電と九州電力グループのキューデン・インターナショナル(福岡市、満吉隆志社長)は、アラブ首長国連邦(UAE)で海底直流送電事業の建設・運営を進めている。日本と韓国、フランスの電力会社がタッグを組み、中東初となる海底直流送電によって世界最大級の海洋石油・ガス生産基地の脱・低炭素化を進めるビッグプロジェクトで、総事業費は約38億ドル(約5700億円)に上る。九州送配電とキューデン・インターナショナルから計4人が現地事業会社(ADOPT)に出向し、日々奮闘している。(九州支局長・浜義人)

 ◇25年に運開へ

 同プロジェクトは、九州電力グループとして海外送電事業への初参画案件となる。アブダビ国営石油会社(ADNOC)がUAE沖合に開発する2カ所の石油・ガス生産基地に、本土から原子力発電や再生可能エネルギーなどの電力を供給する。

 現在は、各基地に設置したガス発電で電力を賄っており、送電が実現するとガス発電を廃止するため、ADNOCの海洋基地から排出される温室効果ガスを30%以上削減できる見込み。海底直流送電線と交直変換設備を構築し、2025年の運転開始を計画している。

 今回のプロジェクトは、UAEでの原子力や再エネ導入拡大が呼び水となった。ADNOCは石油・ガス生産プロセスの脱・低炭素化を目指しており、必要電力の全量をガス発電で賄う海洋基地の温室効果ガス排出削減は不可欠。以前は陸側電源の多くは石油・ガスが燃料だったため、陸側からの電力供給は温室効果ガス排出原単位の削減につながりにくかった。

 一方、UAEは近年、原子力や再エネ開発を急速に進めており、陸側からの電力供給で海洋基地の排出源単位を削減できる環境が整いつつある。

 九州送配電事業開発室の藤原信也室長は、「UAEには今回対象となった地点以外にも、海洋石油・ガス生産基地があり、今回のプロジェクトを皮切りに本土側からクリーン電力を送電する取り組みが進む可能性がある。周辺国からも関心が高い」と指摘する。

 ◇国際的な注目

 クリーン電力を活用した今回のプロジェクトは、国際的に注目を集めている。23年10月には、英国プロジェクトファイナンス専門誌「IJグローバル」が選ぶ「IJグローバル ESGエナジートランジションアワード2023」を受賞。海洋石油・ガス生産基地にクリーン電力を送る事業として、脱炭素化への貢献が高く評価された。

 プロジェクトの建設地点は、アブダビから西側のミルファ―アルガラン島のザクムルート、シュワイハット―ダス島のダスルートの2ルートで、総容量は320万キロワット。亘長は、ザクムルートが約130キロメートル、ダスルートが約140キロメートルに達する。

 プロジェクトには九州電力グループのほか、韓国電力、フランス電力(EDF)が参画し、ADNOCとアブダビ国営エネルギー会社を加えた5社が出資してADOPTを設立。ADOPTとADNOCが35年間の送電契約を結び、その後はADNOCに全ての設備を譲渡する。契約関係ではこのほか、国際協力銀行(JBIC)や韓国輸出入銀行、市中銀行と22年9月に30億ドル(約4500億円)超の融資契約を交わした。

 EPC(設計・調達・建設)契約はサムスングループのサムスンC&Tとベルギー・ヤンデヌールと締結。サムスンC&Tは、主に本土側と島側の交直変換設備とケーブル調達、土木・建築・設備工事を担当し、ヤンデヌールは設計前調査や海底ケーブル敷設、しゅんせつ工事、ケーブル防護工事などを担っている。

 長期保守契約は、交直変換設備を日立エナジー、ケーブルをイタリア・プリズミアン(ザクムルート)、住友電工(ダスルート)と結んだ。

 21年12月に送電契約を締結後、調査測量などを開始。22年5月からプリズミアン、同年9月から住友電工がケーブル製造に着手し、23年1月に建設工事が始まった。ダスルートは25年9月、ザクムルートは同年12月の運開を予定。現地では、交直変換設備やケーブル工事が急ピッチで進む。

電気新聞2024年7月16日