航空業界にも電動化の波が打ち寄せている。その先端を走るのが「空飛ぶクルマ」と俗称されるeVTOLだ。欧米では既に試験飛行を繰り返しており、2026年頃には商業運行が始まる。eVTOLは電動による垂直離着陸機だが、実は小学校の校庭ぐらいあれば離発着できるeSTOLや既存小型機を電動化するeCTOLなどもある。初回は、空飛ぶクルマの特徴を紹介していきたい。
移動時間の節約に
商業航空機は「高く、遠く、大量に」を目標に開発されてきた。一方、空飛ぶクルマは「低く、近くに、小人数で」空の旅を楽しむことを狙っている。加えて、静かで、CO2を出さない環境に優しいことも重要だ。
その起源は、15年にNASA(米連邦航空宇宙局)が始めたオンディマンド・モビリティー(ODM)研究と言われている。オンディマンドとは、定期運行ではなく、好きなときに好きな場所に飛ぶこと。ODMでは「電動推進」「無人操縦技術」「管制オートメーション技術」「軽量コンポジット構造」といったイノベーションを洗い出し、自動車のような「オンディマンド航空機」を研究した。
この研究に注目したのがライドシェア(乗車共有サービス)の米ウーバー社だった。16年10月、同社が出したウーバー・エレベート白書は「空飛ぶクルマブーム」を巻き起こしたが、その構想はODM研究にライドシェアを加えたものだった。同時期、欧州ではエアバスがUAM(都市型航空交通システム)を提唱し、ブームは世界的にひろがった。
ウーバー白書には大都市の交通渋滞を緩和する決め手として、空飛ぶクルマが大量に空を飛ぶ夢が描かれている。ただ、現在は渋滞緩和の効果について疑問を唱える識者も多い。現在開発中の機体は4人から6人程度で、大量輸送には向かないからだ。
しかし、都心から必要に応じて少人数を時速200キロメートル以上で移動できるため、移動時間を節約できる交通機関として多くの用途が考えられる。
電動推進で低騒音
空飛ぶクルマの特徴はモーターとバッテリーで飛ぶことだ。モーターは、エンジンに比べ重量あたりの推進力が高く小型化できる。例えば、最近日本各地でデモンストレーション飛行をしているEH216機のモーターは握り拳より少し大きい程度。それを16個使って2人(約200キログラム)を乗せて飛ぶことができる。
ちなみに、米国では60年代から70年代にヘリコプターによる公共交通が盛んで、年間百万人以上が利用した時期もあった。しかし、度重なる事故と騒音問題から次第に低調になり、今は大量旅客輸送にほとんど使われていない。ヘリは大型ローター1つで推力を生むが、それが故障すると大事故につながる。一方、空飛ぶクルマは4つから8つ程度の小さいプロペラを使う。鳥が衝突して1つプロペラが止まっても、安全に着陸できる。
ヘリに比べ騒音が少ないことも電動推進の利点だ。最近のヘリは安全性も高い。しかし、ヘリはエンジンと長大なブレードから大きな騒音がでる。一方、小さなプロペラを回す空飛ぶクルマは、圧倒的に騒音が小さい。商業化レースでトップを走る米ジョビー・アビエーションの「S4」は、機体から100メートル程度でも騒音70デジベル程度で普通に会話ができる。これなら朝の住宅街から都心へと飛ぶことができるだろう。
気のおけない仲間と、ちょっと空の旅を楽しむ。そんな空飛ぶクルマの時代は、着実に近づいている。
【用語解説】
◆eVTOL(イーブイトール) electric Vertical Takeoff Landing plain、電動で垂直離着陸ができる航空機
◆eSTOL(イーエストール) electric Short Takeoff Landing plain、電動で短距離の滑走路で離発着できる航空機
◆eCTOL(イーシートール) electric Conventional Takeoff Landing plain、電動で普通の滑走路で離発着する固定翼機
◆UAM(ユーエイエム) Urban Air Mobility、都市上空(低空域)を使う航空交通システム
電気新聞2022年11月7日