ガス事業の草創期を継ぐ裸火のガス灯。ガスミュージアムには灯柱が移設され今もその灯りを掲げている(東京都小平市)

 

東京・小平「ガスミュージアム」で企画展

 
 1872年(明治5年)に横浜の街にガス灯がともり、日本でガス事業が始まってから31日で150年を迎える。文明開化の象徴として街を照らしたガス灯は室内のあかりとしても普及した。

 当初は裸火だったものの、その後、青白い光が特徴的な「マントル式」が登場。夜を余暇に充てるなど、人々のライフスタイルを一変させた。

 時代は下り、震災・戦災で都市の姿は変貌し、ガスも照明から熱利用へと転換した。ただ、いつの世も人々の暮らしをより便利に、快適にしようとする役割は変わっていない。

 東京ガスネットワークの「ガスミュージアム」(東京都小平市、浅倉与志雄館長)では事業開始150周年を記念した「ガス灯展」が開催中だ(12月25日まで)。多彩なガスランプや貴重な資料などを展示し、ガス事業の変遷をつぶさにたどれる。同館の中庭には明治期に活躍したガス灯が移設されていて、ゆらゆらときらめく炎が往時をしのばせる。(文=稻本登史彦、写真=山口翔平)

電気新聞2022年10月25日
 
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「照明から熱」変遷たどる

 
 日本でガス事業が始まってから、きょう31日で150年を迎える。街路を照らすガス灯の裸火は技術の進歩に伴い室内照明として定着。関東大震災、第2次世界大戦を経て、照明から熱利用へと用途を変えながらも、ガスは常に人々の暮らしに寄り添ってきた。東京ガスネットワークの「ガスミュージアム」(東京都小平市、浅倉与志雄館長)で開催中の企画展を通じ、ガス事業の黎明期を振り返る。(稻本登史彦)

 明治期の東京には「点消方(てんしょうかた)」と呼ばれる専門職がいた。硫黄を火種とした点火棒を用いてガス灯1基ずつに火をともし、夜の訪れを告げた。陽が上れば今度は消灯に回る。時間厳守で寝坊は許されないため、点消方には妻帯者が選ばれた。

 清掃や割れたガラスの補修など、メンテナンスも請け負った。一人で50~100基を受け持っていたとされ、市中を勢いよく駆け回る姿が目を引いた。
 

横浜に灯ったガス灯

 
 約1万4千点に上る文献や灯具などを収蔵・展示するガスミュージアムの高橋豊副館長は、「当館が開館した1967年には点消方を務めた東ガス社員2人がまだご存命で、貴重な証言を残してくれた。当時の様子を知ることができるのは、そのおかげ」と話す。

ガス事業150年を記念したガス灯展では貴重な文献や灯具を展示する(左から浅倉館長、高橋副館長)

 1872(明治5)年に横浜・馬車道にガス灯がともり、日本におけるガス事業が本格的に始まった。その2年後には東京・銀座にも広がり、ろうそくや行灯(あんどん)の光に慣れた明治の人々に文明開化、近代化のシンボルとして歓迎された。

 当時のガス灯は裸火で、炎が二手に分かれる姿から「魚尾灯」と形容された。だが、明治も半ばを過ぎると綿糸や人造絹糸(現在のレーヨン)の袋に発光剤のトリウムやセリウムを染みこませた「マントル式」が登場。青白い光で、明るさはそれまでの5倍に。「観劇や買い物など夜でも出歩けるようになり、ライフスタイルが一変した」(高橋副館長)

 時を同じくして、全国各地にガス会社が誕生。大正時代の初めには都市部を中心に街灯9500基、室内灯155万基のガス灯が設置され、全盛期を迎える。その一方、“ライバル”として登場した白熱電球も急速に発展。関東大震災を機に電灯への置き換えが進んだ。
 

台所が劇的に変化

 
 だが、流行の洋風建築に合わせ、意匠を凝らしたガス灯も次々生み出され、装飾具としての役割を担った。同館には邸宅を彩った卓上式や吊り下げ式、壁掛け式など多種多様なガス灯が並ぶ。

 照明では主役の座を電灯に譲ったが、時代の変化に従い、ガスは熱利用へと大きく舵を切る。まずはガスレンジやガスかまどなどが登場。台所の風景を劇的に変えた。その後も暖房機器などに用途は広がり、生活を支える基幹インフラにまで成長した。

 わずかだが、ガス灯が照明用途として復活した時期もあった。終戦から4年後の1949年12月、電気に先んじてガスの24時間供給が10年ぶりに再開。電灯を補完する形でガス灯が利用された。これ以降、原料は石炭系ガスから石油系ガスへと移り変わっていく。
 

「第3の創業」業界大で

 
 現在も産業・民生部門の消費エネルギーの約6割は熱需要が占める。2050年カーボンニュートラルに向けてガス業界は、足元の熱需要の低炭素化ニーズに応えつつ、天然ガスシフトを推進。水素と二酸化炭素(CO2)から天然ガスの主成分、メタンを合成するメタネーションの社会実装を目指す。大手事業者を中心に実証が進んでいる。

 日本ガス協会の本荘武宏会長(大阪ガス会長)は、半世紀前のLNG導入を「第2の創業」と表現した上で、「メタネーションの社会実装を柱とするカーボンニュートラルの実現は、都市ガス業界にとって大きな挑戦だ。『第3の創業』と位置付け、業界一丸となって対応していきたい」と語る。

◆メモ
 ガスミュージアムではガス事業150年を記念した「ガス灯展」を12月25日まで開催している。ガス灯が活躍した5つの時代に焦点を当て、その魅力を150点の灯具や写真、文献で紹介。点灯実演も行われる。入場は無料。浅倉館長は「暮らしに寄り添ってきたガス灯の歴史を身近に感じて頂ければ」と話している。

電気新聞2022年10月31日