アンモニア専焼を成功させたIHI横浜事業所の2千㌔㍗級GT

 

液化時の熱量、輸送性など優位

 
 IHIは2千キロワット級ガスタービン(GT)で、温室効果ガスをほぼ排出せずにアンモニアの専焼を成功させた。アンモニア燃料利用といえば石炭火力で混焼するイメージが強い。しかし、アンモニアは水素と比べて液化時に質量当たりの熱量が高く、輸送技術も既に確立されていることなどから、コストをはじめ総合的に優位性が高いと見込む。約10年にわたる研究で一定の成果を上げており、今後は連続運転や実機を使った実証を行って商用化を目指す。

 IHIのアンモニア燃焼に関する研究は、2013年度の文部科学省「先端的低炭素化技術開発(ALCA)」までさかのぼる。14年度には内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)にも参画した。
 

水素取り出しより直接燃焼

 
 技術開発本部技術基盤センターエネルギー変換グループの内田正宏主査は、「本当にアンモニアが燃えるのか、最初は社内でも懐疑的だった」と振り返る。研究室内で炎にアンモニアを投じても、燃えているのか分からなかったという。

 気体のアンモニアは重さ当たりの低位発熱量が水素の15%程度にとどまる。燃焼速度が遅く、火炎温度は低い。だが、液体での密度はアンモニアの方が10倍弱高く、輸送効率では上回る。また、水素より沸点が高いので液化に要するエネルギーを抑えられる。輸送技術は肥料分野で既に確立されており、IHIはアンモニアから水素を取り出すよりも直接燃焼する道を選んだ。

 燃焼に関しては、気体ではなく液体を噴霧する方式を採用。気化設備と気化後の燃料調整用タンク、配管内で再び液化するのを防ぐためのヒーターが不要になり、全体的に設備をシンプルにできる。気体より液体の方が燃えにくいが、今後の技術開発も見据えて総合的に判断した。

 燃焼時の有害な窒素酸化物(NOx)の排出削減も大きな課題だ。二酸化炭素(CO2)の約300倍の温室効果を持つ亜酸化窒素(N2O)については、ほぼ排出せずに専焼することに成功した。また、アンモニアは腐食性が高い。24~25年度に予定する連続運転では、材料の耐久性確認も重要なポイントになる。

 26~27年度には商用化への最終段階として実地での実証を目指す。自社事業所だけでなく、顧客設備のGTで実証することも視野に入れる。2千キロワット級ならアンモニア供給が容易で、導入の障壁は低いとみられる。

 ソリューション統括本部アンモニアバリューチェーンプロジェクト部の加藤壮一郎主幹は、「2千キロワット級ではアンモニアの消費量が限定的。大型火力で燃やすなどして需要を増やしていけば、世界中から投資も集まり、コストが下がる。そうでないと結局は2千キロワット級も普及しない」と強い意欲を示す。
 

1年前倒し、期待の裏返し

 
 IHIはJERAと碧南火力発電所4号機(石炭、100万キロワット)で行うアンモニア20%混焼を23年度に始める。世界的に加速する脱炭素の動きを踏まえ、当初計画から1年早めることになった。

 「アンモニアがそれだけ期待されていることの裏返し。技術者は安全に無理なく進めたがるが、そうした動きに後押しされたことでGT専焼も早く成果を上げられた」と加藤氏。総力を挙げてアンモニア燃料利用の社会実装を急ぐ構えだ。

電気新聞2022年8月18日