欧州への天然ガス供給でロシアが「選別」を図っている。国営ガス会社のガスプロムは2022年1月のブルガリアとボスニア・ヘルツェゴビナ向けガス輸出量が増加したと発表。欧州内でもロシアが影響力を及ぼすバルカン半島諸国などへの供給増をうたうことで、ドイツなど西欧への圧力を強めている。西欧側はロシアの「常套手段」と受け止める一方、スポット価格高騰によりロシア産の追加調達をためらっているもよう。ウクライナ情勢が緊迫化する中、エネルギーを巡るせめぎ合いが続く。

 ガスプロムは現地時間1日、22年1月のガス生産量と国内・国外向け供給量を公表。生産量は前年同期比1%増の474億立方メートルになった一方、国外への輸出は同41.3%減の114億立方メートルと大幅に減った。

 公表文によると、ブルガリアとボスニア・ヘルツェゴビナ向けのガス供給量は前者が同20.6%、後者が同12.9%増えたという。両国は黒海経由でトルコに上陸するパイプライン「トルコ・ストリーム」と、そこからバルカン半島を北上する「バルカン・ストリーム」でガスを受給している。
 

在庫3割近く減

 
 一方、ガスプロムはベルギーに本拠を置く欧州ガス関係団体のデータも引用。欧州全体のガス在庫が1月30日時点で同27.2%低下していることに言及し、ウクライナのガス在庫が同46.3%下がっているとも指摘。ウクライナ経由のパイプライン「ソユーズ」などに頼る西欧を露骨に牽制する。

 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の白川裕調査役は、こうしたロシアの動きを「常套手段」と指摘する。ボスニアなどバルカン半島諸国は旧ソビエト連邦時代から「東側」として関係が深い。決して需要の多くないバルカンへの供給増を西欧へのアピールに利用している。
 

価格面も「配慮」

 
 また、バルカン諸国への供給には価格面でも「配慮」している可能性があるという。白川氏は「ロシアは友好国などに対して極端に安価な値段でガスを供給してきた歴史がある」と話す。高騰する市場価格に苦しむ西欧には効き目がある、とロシアは踏んでいるようだ。

 バルカン諸国側も安価にガスを買えるのは利点になる。21年に開通したバルカン・ストリームの敷設・延伸も、エネルギー安全保障を重視するセルビアなどの積極性が奏功した面がある。歴史的にエネ供給でロシアとつながりの深いこれらの国々は、西欧とは明らかに事情が異なる。ロシアはそれも織り込んでいる。

 西欧側はロシアからの追加調達を躊躇(ちゅうちょ)する。JOGMECの原田大輔担当調査役は「ガスプロムは契約義務は守っている。ただガスのスポット価格が高いため、欧州が追加調達できないというのが現状だろう」と分析する。供給量を絞っているわけではないが、徐々に追い詰めるというのがロシアの意図のようだ。

 「西欧側もこうした意図は分かっていると思うが、止める手段がない。他国からの追加調達や在庫分で春までの需要を賄うつもりだろう」と原田氏。ロシアにはドイツへの海底パイプライン「ノルド・ストリーム2」を早く稼働させたい思惑もある。政情とエネ供給を巡る神経戦が今後も続きそうだ。

電気新聞2022年2月4日