電気自動車(EV)の最大の利点は、走行中の排出ガスがゼロ、つまりゼロエミッション車ということだ。しかし、搭載するバッテリーは製造時に多くの電力を使うため、EVの生涯を通じた環境負荷は決して小さくない。今後、各国の環境規制ではEVをライフサイクルアセスメント(LCA)で評価し、環境負荷を厳密にはじき出すことが定着する。自動車各社には生産国の電源構成を勘案するなど、LCAでも優位になるEV戦略が求められる。
トータルの環境負荷に課題
今のところ、量産化されているゼロエミッション車はEVと、水素を動力源とする燃料電池車(FCEV)だけだ。走行時に有害ガスを排出しないことで、クリーンなイメージがあり、カーボンニュートラルの実現では輸送分野の主役を担っていく。
だが、視点を変えるとEVもFCEVも環境負荷の点では課題を抱えている。自動車の環境負荷の測定は、現状では走行時の排出ガスで行われる。その測定は、タンクに入ったガソリンで車輪を動かすまでの負荷なので「Tank to Wheel(タンク・ツー・ホイール)」と呼ばれる。EVの場合だと、バッテリーに入った電気で車輪を動かすまでなので、負荷はゼロだ。
しかし、電気の由来までさかのぼると、発電を太陽光や風力で行った時と、石炭火力で賄ったケースでの負荷は大きく異なる。さらに自動車の製造から廃棄に至るLCAの観点で捉えると、現状ではEVもFCEVも断トツの優等生ではないという姿が浮かぶ。
表は、国際エネルギー機関(IEA)が2020年6月に公表したLCAによる車種別の温室効果ガス排出の調査データを基にまとめたイメージだ。クルマの年間走行距離は1万5千キロメートルで10年間使用などを前提としている。EVは搭載するバッテリーが40キロワット時と80キロワット時の2タイプで比較された。排出が最も少ないのは40キロワット時のEVと充電可能なプラグインハイブリッド車(PHEV)で、ほぼ同量。次いでハイブリッド車(HEV)とFCEVがほぼ同量となっている。しかし、80キロワット時とバッテリーを多く搭載したEVは、わずかだがHEVよりも排出量が多い結果となった。
バッテリー(リチウムイオン電池)は製造時の電力消費が大きく、LCAで見るとEVの弱点となるのだ。そうした実情を踏まえた“律義なEV”も登場している。マツダは20年秋に発売した初の量産EV「MX―30」のバッテリーを35.5キロワット時と少なめにした。フル充電時から走行できるのは200キロメートル(欧州測定モード)で、一般的な400キロメートル以上には及ばない。しかし、「実用的な航続距離と、本質的な環境負荷低減を両立させるバッテリー容量」(工藤秀俊常務執行役員)として、このサイズを決断した。
こうしたLCAに立脚したEVの評価は、順次、各国の環境規制にも導入されるのが必至だ。結果、バッテリーやEVは、クリーンな電力の国で生産しなければ戦えなくなる。日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)は3月の定例会見で、政府のカーボンニュートラル方針に業界として「全力で取り組む方針」を表明した上で、「エネルギー(電力)のグリーン化が必要」と要請した。
日本は電源構成再構築が必要
火力発電が主体の日本でEVを生産しても「(国内外で)誰にも使ってもらえない」と指摘し、日本の自動車産業の雇用について「70万人から100万人の影響が出る」という試算も示して空洞化への強い危機感を示した。売れるEVを日本で造るには、電源構成の再構築が差し迫った課題となっているのだ。
【用語解説】
◆LCA
製品の製造から使用、廃棄に至るまで生涯を通じた温室効果ガスの総排出量といった環境負荷を算出・評価する手法。自動車の場合、製造では鋼板や樹脂など素材の段階から、それらが部品となって車両に組み立てられるまでが対象となる。使用段階ではEVだと走行に必要な電力の発電時の負荷、ガソリン車ではガソリンの燃焼に伴う排ガスの量などとなる。さらに、廃車される時には廃棄やリサイクルなどに伴う負荷が対象となる。電力多消費型のEVは、再生可能エネルギーや原子力による電力を利用すれば負荷を抑制できる。
電気新聞2021年6月28日