台風15号で倒壊した電柱をクレーンで起こそうとする作業班(千葉県館山市)
台風15号で倒壊した電柱をクレーンで起こそうとする作業班(千葉県館山市)

 台風接近とともに世界が変わる――。

 9月8日午前、気象庁は臨時の記者会見を開き、台風15号について警戒を呼び掛けた。翌9日未明、台風15号は東京湾を縫うように北上。過去最強といわれた勢力を保ったまま、午前5時前に千葉市付近に上陸した。

 台風15号に伴い、千葉県10地点では観測史上1位の風速を記録。その中でも千葉市、木更津市、館山市、成田市では瞬間最大風速45メートル以上の風が吹いた。風速40メートル以上では、一般的に木が倒れ、看板が落下し、走行中のトラックが横転すると定義されている。
 
 ◇被害7割が千葉
 
 台風15号は千葉県と茨城県を進行し、9日午前8時には海上へと抜けた。上陸からわずか3時間ほどの間に、千葉県の電力設備は甚大な被害を受けたとみられる。午前7時50分には関東全域で最大93万件の停電が発生。その7割に相当する64万件は千葉県だった。

 東京電力ホールディングス(HD)は停電の発生を受け、送配電事業を担う東京電力パワーグリッド(PG)を中心に各地で復旧作業を開始。気象データなどから千葉県の被害の大きさは認識していたものの、当初は1週間程度で復旧可能との見方が支配的だった。

 初動の見通しの前提となったのが、2018年9月に発生した台風21号での復旧活動の知見だ。台風21号では、関西エリアを中心に最大240万件の停電が発生。台風15号に伴う東電PGエリアの停電戸数の2.5倍に当たる数だが、それでもピーク時の停電が99%解消されるまでにかかった時間は5日にすぎない。

 台風21号の停電復旧よりも長期化するとの認識は薄く、「台風上陸から2日目まではそこまで深刻化するという雰囲気はなかった」(東電HD幹部)という。東電HDは10日、同日午後5時時点で58万件残っていた停電を同日夜の間に12万件に減らすと発表した。

 だが、時間がたつにつれ、社内の空気は変わっていく。停電解消が思うように進まず、11日朝になっても停電は40万件以上で継続。台風21号などの過去の経験則では、事態を把握できない状況に陥った。
 
 ◇倒木処理に時間
 
 復旧を阻んだ要因の一つが倒木だ。台風15号では、配電設備近くの木が根元から倒れるケースが至る所で発生した。全容はなお把握されていないが、少なくとも「これまで経験してきた台風に比べて相当な規模の倒木があった」(東電PGの塩川和幸技監)ことは確実とみられている。

 倒木によって電柱が損壊する場合だけでなく、電線の被覆を損傷させ、そこから漏電する場合も変電所側が検知し、停電に至る。電線に木が寄り掛かっただけでも電線が引っ張られ、碍子が破損・漏電し、停電する場合もある。

 停電復旧の前段では、こうした倒木の処理が必要になる。電気事業法第61条3項では、公衆災害などの緊急時、供給の支障になる倒木を電力会社の判断で伐採することも認められている。

 だが、倒木の絶対数が多かったほか、倒木で道がふさがれることによって現場にもアクセスできず、事態が悪化。山間部は倒木の伐採に使う高所作業車などの大型車両が入れない狭い場所も多く、東電PGは困難な作業を強いられた。

 大量の倒木によって復旧作業が進まない状況は改善されず、東電PGの金子禎則社長は13日、全面復旧がそこからさらに2週間かかると発表。その見通し通り、27日には一部の復旧困難な場所を除いておおむね復旧が完了したが、19日間という異例の長期停電は多くの課題を残すことになった。
 

 
 台風15号が襲来してから9日で1カ月が経過。千葉県を中心とした停電被害の実態が、次第に明らかになってきた。早期復旧を阻んだ要因や復旧見通しの混乱を招いた原因がどこにあったのかを検証する。

電気新聞2019年10月9日

※「台風15号の爪痕 東電が直面した課題」は連載中です。続きは電気新聞本紙または電気新聞デジタル(電子版)でお読みください
 
 
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