倒木を切断する作業員(千葉県八街市、9月20日)
倒木を切断する作業員(千葉県八街市、9月20日)

 台風15号の影響による千葉県内の停電復旧が時間を要している。その要因は、被害状況の全容把握や電力設備や道路に掛かる倒木の除去に時間がかかっているためだ。昨年の台風でも送配電の伐採班が応援に駆け付けたことは記憶に新しい。これだけの被害範囲と復旧への支障をみると、電力設備を倒木から守る伐採がいかに大切か。そして大変かに思いが及ぶ。

 例えば送電設備に枝が近づき被害を及ぼしそうな樹木は、保守点検を受けて専門の作業者が伐採する。地権者に事情を説明したり、地権者から要望を受けたりして、ピンポイントで樹木を切る。実はこれこそ技量と経験が必要な作業だ。

 そもそも、電力設備向けの伐採は切るべき樹木が決められ、場所も限られる。林業の伐採は「皆伐」といい、一定範囲の区画を全部切り倒すが、電力の場合は局所的な伐採だ。対象も用材に使われる針葉樹を切るだけでなく、枝の広がる広葉樹など幅広い樹種を切らなくてはならない。

 切るべき樹種が多い分、それに応じた安全の知識も必要。切れ込み方向に配慮し、裂けやすい木は裂け止めを施す。皆伐と違い重機も使えず人間の技量が必要。ある電力専業の伐採業者によると、知識を高めて「一人前になるまでにはおよそ15年を要する」という。

 倒木が隣の樹木に寄り掛かる「かかり木」の伐採は特に危険度が高い。この状態で伐採すれば思わぬ方向へ樹木が倒れ、災害の危険が高まる。他の樹木を浴びせ倒したり、寄り掛かった状態で元玉切りをするなど、間違った方法での伐採は法律で禁じられている。電力設備が近いなら、電線を切断したり電柱が倒れたりしないよう、慎重な配慮も必要だ。

 地権者が保有林を放置したり、線下の離隔点検をしても1年後には樹木が伸びたりして、伐採が必要な場所は多い。しかし確かな技量を備えた作業者は高齢化し、後継者が入らないため、将来の伐採が適切に行われるか懸念される。林業は労働単価が安く担い手が不足。事故が多く発生するなど課題は山積している。

 災害時は電力設備に限らず道路、森林と、各インフラの被害が連動する。行政の所管で区分けせず、インフラ全般を見渡す対策が必要になる。

電気新聞2019年9月19日