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台風15号被害――オール電力で挑んだ停電復旧の軌跡
全国からの応援は最大規模。早期復旧を阻んだものとは
電気新聞取材班
2019年10月2日
9日午後、千葉市中央区で行われていた復旧作業。関東に上陸したものでは過去最強クラスの台風15号。強風による巨大な飛来物が配電設備に大きな被害をもたらした。
9月9日未明、千葉市に上陸した台風15号は、千葉県を中心に各所に甚大な被害をもたらした。千葉市で最大瞬間風速毎秒57.5メートルを観測する、強大な台風により、93万4900件(9日午前7時50分時点)が停電。東京電力パワーグリッド(PG)は、北海道から沖縄までの電力9社や電気工事会社から過去最大規模の応援を受け復旧に臨んだが、復旧作業は異例の長期戦となった。9月30日現在、一部を除きおおむね停電は解消した。台風被害からの復旧の模様を写真で紹介する。
台風が残した大きな爪あと
経済産業省の試算では、台風15号により倒壊・損傷した電柱は約2000本。昨年、近畿地方を中心に被害をもたらした台風21号と比べ、被害エリアは狭いが、被害規模はおよそ1.5倍にのぼった。鉄塔も2基倒壊。復旧作業を行うために向かった現場では、大量の樹木の倒壊や土砂崩れなど台風の爪あとに直面した。
鉄塔2基倒壊。10日までに応急復旧
千葉県君津市内では送電鉄塔が2基倒壊した。10日夕までには被災区間を迂回し、応急的に送電を復旧。倒壊現場では倒壊した鉄塔の再建に向けた準備のため、東電PG千葉建設センターやTLCらが現地調査を行っていた(10日)。
倒木が作業車両を阻む
今回の台風では、倒木により道路がふさがれ、車両が通れない状況があちこちでみられた。写真は鉄塔の倒壊現場近く。木々や電柱がアスファルトを覆い隠し、かろうじて道路標識が道であることを示している。東電PGの社員が状況を入念にチェックしていた(10日)。
難しい現場を前に
千葉県市原市ではゴルフ練習場のポールがネットごと倒れ、配電設備も大きな被害を受けた。現場では東電PGと応援の東北電力、ユアテックの3社が現状を確認していた(10日)。
復旧へ全力
台風15号による被害は千葉県をはじめ、関東地方の広範囲に及んだ。東京電力PGは自社の要員・電源車に加え、他の大手電力からも高圧発電機車や要員の応援派遣を受けながら、各地で復旧作業を進めた。
連なって倒れる電柱。猛暑の中、作業を急ぐ
千葉県館山市内では田畑を通る農道200~300メートルの区間に電柱が連なって倒れていた。台風一過、30度を超える猛暑の中、関電工が電柱の撤去作業を行っていた(11日)。
土砂崩れ、大木で覆われた道を切り開く
台風15号では通信環境の維持も課題となった。静岡県河津町では、非常用電源で稼働中の山間部にある無線中継所に対する送電再開へ向け、土砂崩れや倒木でふさがれている山道を切り開き、作業車両を通した(河津町、19日)。
配電設備にもたれかかる樹木
千葉県八街市の御成街道では、道路脇の杉林から数本の倒木が電線や電柱にもたれかかっていた。通常、配電作業では枝葉を切る程度だが、ここでは木の幹を切断しクレーンで移動させるという作業が必要となった。幹の中がスカスカになり弱っている樹木も多く、重心が分かりにくいため思わぬ方向に傾くこともあることから、慎重に作業を進めていた(20日)。
自衛隊と連携
各地で道路が樹木などによってふさがれていたことから、自衛隊とともに復旧にあたる現場も多かった。写真は、御成街道の現場で、切り出した倒木を撤去する陸上自衛隊(千葉県八街市、20日)。
全国から過去最大の応援
北海道から沖縄までの電力9社や電気工事会社の復旧応援は過去最大規模に。台風15号復旧に向けての他電力からの応援規模は、20日午後4時時点(延べ数)で、高圧発電機車が174台、応援要員は9164人にのぼった。このほか工事車両や低圧発電機車も多数派遣された。
大量の工事車両が海をわたる
14日午前、徳島県の徳島港には四電工と協力会社の工事車両が並んでいた。追加応援に向かう四国電力からの第3陣となる工事車両で、定期運行フェリーで関東へ向かった。
生活に密着する設備にいち早く
千葉県市原市の「菊間水再生センター」の下水処理施設が停電により9日午前5時すぎに停止した。関西電力大阪北配電エンジニアリングセンターの応援部隊は9日午後2時過ぎに大阪を出発。10日深夜0時ごろに千葉市内に入り、午前9時頃から高圧発電機車により復旧作業を開始。午前11半ごろに施設が再稼動した。
電気を供給する使命にエリアの違いはない
茨城県では、最大約11万件の停電が発生。10日、鉾田市で行われていた復旧作業には、前日に富山市を出発した北陸電力からの応援部隊が作業を行っていた。担当者は「電気を供給する使命は会社、エリアの区分けとは関係ない」と語った。
被害を最小限に
千葉県市原市の現場で活躍するユアテックの応援部隊。被災した箇所と健全な箇所を切り離すため、電線を切り離していた(12日)。
沖縄からの応援部隊が電気を供給し、小学校が授業を再開
停電が長引く八街市の川上小学校には15日から、沖縄電力からの応援部隊が発電機車で電力供給を開始した。これにより川上小学校は17日から授業を再開。鈴木浩明校長は「最初に沖縄電力の車を見た時は、そんな遠くからと驚いた。地域は停電中なので頂いた電気を大事に使っている。感謝してもしきれない」と話した(写真は18日、発電機車の状態をチェックする沖縄電力の応援部隊)。隣の学校には東北電力の応援部隊が発電機車で電気を供給していた。
電気を止めない
同じ八街市の沖地域で20日、高圧発電機車で電力供給を行っていたのは中国電力の応援部隊。写真上部の電柱付近には発電機車から配電線へ接続している。前日から送電を開始し、送電を止めないために24時間体勢で発電機車の監視を行っているという。ここでは1日1回ほどのペースで燃料を補給する必要があるということで、その準備を行っていた。
本格復旧へ向けた作業も始まる
鉄塔が倒壊した現場では25日、送電線の撤去作業が始まっていた。二次災害を防ぐための安全対策、周辺倒木の撤去、作業用地の整備などの準備が終了して、23日、始まった作業だが、電線は周辺の樹木に複雑に絡まっており、撤去に取り掛かる特定の電線がどれなのか判別しにくくなっていた。
EVが助っ人に
東京電力では、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCV)を被災地に派遣。拠点施設や介護施設などで、照明や携帯電話の充電などに利用された。
東京電力では自動車メーカーの協力を得て、14日から16日にかけEVなど64台を千葉県に派遣し、移動蓄電池として利用した
子供たちの声に励まされ
停電を直してくれてありがとう――。台風15号の復旧に取り組む東京電力パワーグリッド(PG)千葉総支社に18日、千葉市内の小中学生約千人の寄せ書きが届けられた。吉田恵一総支社長は、「一つ一つのメッセージが現場の仲間、全国から応援に来ている仲間にとって何よりの励みになる」と語った。
千葉市内の小中学生からの寄せ書きには、「暑い中ありがとうございます。がんばってください。おうえんしています」「とおいところからわざわざきてくださってありがとうございます」など、多くの感謝の言葉がつづられていた。