先頃、閣議決定された長期戦略に掲げられた、今世紀後半の脱炭素社会実現に向けては、再生可能エネルギー主力電源化に取り組むとともに、電化技術の普及を図っていく必要がある。民生用のエネルギー需要については、既存技術の浸透を図り、産業用のエネルギー需要については、新たな技術開発を推進する必要がある。今回から4回にわたり、産業の脱化石燃料依存のために、再エネと電化による可能性について紹介する。
 

実用段階にある電化技術の普及は、今すぐにできること

 
 日本政府は2019年6月11日、「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」を閣議決定した。15年に採択されたパリ協定を踏まえ、最終到達点として「脱炭素社会」を掲げ、それを今世紀後半のできるだけ早期に実現していくことを目指すとしている。現在の取り組みの延長線では困難な目標であり、非連続なイノベーションを通じて環境と成長の好循環を実現することが必要となる。

 パリ協定を受けて、主要国は日本と同様に野心的な温室効果ガス排出削減目標を打ち出しているが、電化の推進を温室効果ガス排出削減のための重要な政策として掲げている国が多い。日本の長期戦略は、非連続なイノベーションとして水素やカーボンリサイクルにより焦点が当たっているように思えるが、再エネの主力電源化とセットで実用段階にある電化技術の普及を図っていくことは、今すぐにできること、あるいはやるべきことである。

 実際、東京電力ホールディングス経営技術戦略研究所では、「電力供給サイドで電源の低炭素化を進めること」と「需要サイドで電化技術への置換を進めること」の掛け算は、現時点で実用段階にある技術だけを想定しても、二酸化炭素(CO2)排出量を7割程度削減できるポテンシャルがあることを確認している。
 
グラフ_ポテンシャル_4c+

 

需要地での燃焼を電気で置き換える。製造プロセスの電化が課題に

 
 現時点の日本の最終エネルギー消費における電気の割合は、主要国の中では高い方であるが、それでも25%程度にすぎない。75%は需要場所で何らかの化石燃料を燃焼させているわけであるから、CO2の排出は避けられない。CO2排出量の大幅削減を目指すのであれば、需要場所で燃焼させている化石燃料の削減にまず手を付けることは当然だ。特に民生用の空調や給湯用途のために需要場所で化石燃料を燃焼させることは、もはやするべきではないだろう。燃焼を伴わない技術が既に存在するからである。

 他方、素材産業などの製造業の分野では、化石燃料を代替する技術が十分に確立しているとはいえず、今世紀後半の脱炭素化に向けて技術開発を推進していく必要がある。

グラフ_最終エネルギー消費_4c 

再エネ主力電源化は一丁目一番地

 
 長期戦略では、産業用の代替技術として、電化に加えて水素やカーボンリサイクルにも期待を寄せている。水素といってもCO2フリーでなければ意味がないし、カーボンリサイクルで使うエネルギーもCO2フリーでなければ意味がないから、原子力あるいは再エネ由来のCO2フリーの電気が低廉・潤沢に存在することが前提となるだろう。

 つまり、電気を使って水素をつくる、電気を使ってカーボンリサイクルをする工程を挟まずに、電気をじかに製造プロセスで活用することができるなら、それに越したことはない。加えて、これらの政策の実現には、再エネ主力電源化の成功が一丁目一番地ということを改めて認識する必要があろう。

電気新聞2019年7月8日

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