<<前回へ

 
 前回は、コネクテッド(Connected)化によって、製造業がシンプルなモノ売りから、サービス代も稼げる産業への転換を目指す様子を紹介したが、それによって、少々困ったことも発生しかねない。今回はそれを紹介しよう。それは、相互につながらないIoTシステムの乱立である。サービス連携による消費者が期待している“ひとまとまりの価値”を創出するには、どうしたらいいのだろうか。
 

プライベートクラウドを相互接続には課題が

 
図_IoTにおけるサイロ化問題_4c

 モノが当該メーカーのプライベートクラウドに接続されて、そのモノに関する新たな価値が創造されようとしている。素晴らしいことだ。しかし、消費者が期待しているのは、玄関の鍵で言えば、単に解錠パスワードを変更できる機能だけでなく、例えば、窓や電気・ガス機器といった他のコネクテッドなモノと連携して動作する“ひとまとまりの価値”ではないだろうか。すなわち、家を留守にするので鍵をかけた場合、万一の閉め忘れ/消し忘れがあっても安全が確保されるように、窓や電気・ガス機器などには、ダメ押し的に閉/停止信号が送られる、といった類いのものである。

 実際、東京大学生産技術研究所のCOMMAハウスという実験ハウスでは、スマートロックと電動窓、ガスコンロを連動させ、外出のために鍵をかけると、窓が閉まり、ガスコンロにも消火信号が送られる試験システムを組んだ。これには、オープンキャンパス時の一般ご見学者からも好評を頂いた。

 しかし、これを実現するのは実は簡単ではない。というのは、一般的に鍵と鍵メーカーのプライベートクラウド、電動窓とそのメーカーのプライベートクラウドは、それぞれ独立した存在であって、相互にはつながっていない。先の連動動作を実現するには、これらのクラウドを相互に接続して、操作信号をやりとりする必要がある。

 相互に接続できることをインターコネクティビティー、相互にモノを操作できることをインターオペラビリティーと呼び、IoT(モノのインターネット)に関わる多くの関係者がその必要性は認めている。しかし、相互接続協定の締結や責任分界点の設定、相手方機器の動作監視方法など多くの課題があって、相互接続の一般化まではまだ進んでいないのが現状である。
 

サイロ化を防ぐIoTのハブ機能に期待

 
図_相互接続構造_4c

 プライベートクラウドとモノのパッケージが乱立し、それぞれが他とつながらないことをサイロ化と呼ぶ。幸いなことに、各サイロは、ほとんどの場合、APIと呼ぶ外部連携用のインターフェースを設けることが可能である。このAPIを相互に接続すれば、サイロ同士の連携動作が可能となる。これらサイロを玩具のブロックのピースに例えれば、必要なピースを相互につないで希望する模型(IoTによる新たな価値)を手に入れる、というのがIoT世界だと言えなくもない。しかし、スポーツの総当たり戦のように、全ての相手と一対一で協議していたのではIoT社会の早期実現はおぼつかないだろう。従来のインターネットにインターネット・エクスチェンジ・ポイント(IXまたはIXP)という相互接続インフラがあるが如く、IoT用にも同様のハブ機能が期待される。

 そこで、東京大学生産技術研究所では、民間企業の方々と研究会を組織し、サイロの相互接続、相互運用性確保のためのインフラ、IoT―HUBの仕様検討や試作を進めている。先に紹介したスマートロックと窓などとの連携動作もこの試作したHUBを経由して実現したものである。

【用語解説】
◆プライベートクラウド
個別企業が自分のために構築使用するクラウドを、慣習的にこう呼ぶことが多い。実際は、IT事業者からクラウドサービスを購入して、構築している場合がほとんど。

◆サイロ化
サイロとは、牛などの牧草を貯蔵するあのサイロである。本物のサイロには申し訳ない気がするが、これは古くからあるIT用語で、自分のことだけ考えていて、孤立している状態を言う。

◆API
Application Programming Interfaceの略。ソフトウエアを外部から動作させるためのインターフェースを指す。

電気新聞2018年9月3日