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 人工知能(AI)やロボティクス、ブロックチェーンなど新たなデジタル技術が普及したデジタル社会における新しいエネルギー産業を、少し近未来的な観点から考察する。今回は第2回として“プロシューマー”と仮想通貨の登場によって生まれる新たな経済圏について議論したい。
 

卒FITの太陽光オーナーは2025年に240万件


 
 2019年11月に再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)が満期を迎えるユーザーが60万~70万件登場する。その後、毎年、20万~30万件がFITを“卒業”し、さらに20年代前半にはFITを利用しない新設太陽光発電オーナーも登場すると予想される。アクセンチュアの試算では、25年には約240万件のFITを利用しない“プロシューマー(生産消費者)”が登場し、これは日本の戸建て住宅の10件に1件にあたる(図1)。

T&T アクセンチュア 伊藤氏 図1

 この時プロシューマーによって生み出される電力は約74億kWhと試算できるが、これは日本全体の電力消費量全体のわずか1%にも満たない。よって、電力市場からの視点ではニッチビジネスの域を超えるのはなかなか難しく、インパクトは限定的だろう。

 一方、プロシューマーが手にする対価に焦点を当てると、違う世界が広がってみえる。例えば、1kWhの電力を5円で販売した場合、プロシューマーは合計で400億円の収入を毎年得ることになる。このプロシューマーを起点としたマネーフローに注目した新しいビジネスモデルがいくつか考えられる。

 例えば、地域経済圏という文脈でプロシューマーの位置付けを考えてみる。環境省が作成した「地域経済分析システム」によると、地域のエネルギー収支は二極化しており、電源立地地域においては域外からの流入額が流出額を上回る一方で、そうでない地域はエネルギー資源を域外に依存し、流出超過となっている(図2)。
T&T アクセンチュア 伊藤氏 図2
 

トークンエコノミーでエネルギーの地産地消を実現


 
 そこで地域内経済循環を促すための一つの仕組みとして、プロシューマーが発電した電力の対価を地域に還元する仕組みを考えてみたい。つまり、プロシューマーが発電した電力を同じ地域内の消費者に売電し、得られた対価を地域経済圏の中で消費する、というエコシステムの形成だ。

 昨今、ブロックチェーン技術を活用した地域通貨が再び注目を浴びている。経済産業省によると2017年12月に正式運用された、岐阜県高山市・飛騨市・白川村限定の「さるぼぼコイン」など、全国で約600、流通量にして約3億~10億円に上る地域通貨が存在するともいわれるが(2015年現在※)、上述したプロシューマーの収入を地域通貨という形で流通させると、これが一気に400億円規模にまで増える可能性がある。これは、プロシューマーを起点として、新たに大規模な“トークンエコノミー”が生まれることを意味する。

 エネルギーの地産地消については、電力自由化以降、各地でその実現に向けて地域新電力の設立が相次いだが、競争が激化する中でふるいに掛けられているのが現状だ。例えば今回紹介したような新たなテクノロジーやエコシステムの視点を取り入れることで、今後もエネルギー地産地消の旗を降ろすことなく、エネルギーの枠を超えた新しいビジネス、産業を育成することに期待したい。

【用語解説】
◆プロシューマー
生産者(producer)と消費者(consumer)を組み合わせた造語で、エネルギーの消費だけでなく、生産も行う消費者のこと。未来学者アルビン・トフラーによって示された。

◆トークンエコノミー
トークンとは「貨幣の代わりになる価値のあるもの、代替貨幣」のことで、ここでは仮想通貨を指す。トークンエコノミーは仮想通貨を用いた経済圏のこと。

平成27年経済産業省「ブロックチェーン技術を利用したサービスに関する国内外動向調査」

電気新聞2018年5月7日