再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)の導入以降、太陽光発電(PV)の電力系統連系は急増しており、電力会社にとっては、PV出力の変動に応じて正確な需給制御を行うことが喫緊の課題となっている。そして、PV出力の推定・予測を高い精度で行うためには、気象情報や日射量、電力使用量などの膨大なデータの分析や機械学習手法の活用など最新のデジタル技術が不可欠だ。今回は、需給制御の現場でのデジタル技術活用の取り組みを紹介する。
気象衛星の画像を用いて出力を予測
大量のPVが電力系統に連系されると、晴天時の昼間はPV出力が大きくなるため、その分、火力発電による発電量を減らすことができる。そして、経済性の観点からは、極力、燃料単価の安い火力発電機のみを運転させることが望ましい。こうした火力発電機の最適な出力制御、経済運用の実現のために不可欠なのが、PV出力の予測精度の向上だ。PV出力の予測精度が不十分であれば、予測が外れた場合に備えて予備力を十分に確保することが必要となり、場合によっては燃料単価の高い火力発電機も運転せざるを得なくなる。
こうした問題意識から関西電力は、気象工学研究所と共同で日射量短時間予測システム「アポロン」を開発し、これを活用したPV出力予測システムを2016年3月に中央給電指令所に導入した。アポロンは、気象衛星「ひまわり8号」から2.5分間隔で連続的に配信される衛星画像を用いて、現在から3時間30分先までの日射量を1キロメートルメッシュ単位で予測するシステムだ。
具体的には、まず気象衛星から配信される可視画像および赤外線画像を用いて雲の特性を把握し、衛星画像の撮影時刻における地表面の日射強度を推定する。次に、図形の類似性を調べる手法であるパターンマッチングを連続する複数の衛星画像に適用して雲の移動ベクトルを予測し、衛星画像の撮影時刻より後の雲分布を予測。これにより地表面の日射量を予測する。PV出力を予測するには、予測した日射量をPV出力へ変換する必要があるが、スマートメーターで把握できるPV設備単位・30分単位でのPV発電量やPVの容量、設置場所を考慮し、かつ異常値を取り除いた上で換算係数を求めた。
機械学習手法を適用し、精度高める
このPV出力予測手法は、中央給電指令所の実際の需給運用において、火力発電機の起動・停止判断などに活用されている。現在も予測精度向上の取り組みは続いており、日射量以外の様々な気象情報を加味した重回帰手法や機械学習手法の適用による予測精度の検証が進められている。機械学習手法については、処理が高速なことなどからビッグデータ向きといわれている「ランダムフォレスト」を採用することにより「アポロン」導入以前と比較して68%の誤差低減を実現できることが分かっている。関西電力では今後、機械学習手法を実際のシステムに適用し、PV出力予測の精度をさらに高めることを目指している。
これまで発電所から顧客まで一方向だった電力の流れが、PVの急増によって変わりつつある。加えてPVの出力変動は気候によって左右されるため、電力の需給運用は従来以上に複雑化している。今後、安定かつ経済的な需給運用を続けていく上で、デジタル技術の重要性はますます高まっている。
【用語解説】
◆パターンマッチング
コンピューターで、複数の文字列や図形、ファイルなどを比較し、同一または類似したものであるかどうかを調査する手法。ウイルス対策ソフトがウイルスを発見するための、最も一般的な方式である。
◆機械学習手法
世の中の特定の事象についてデータを解析し、その結果から学習して、判断や予測を行うためのアルゴリズムを使用する手法であり、「ディープラーニング(深層学習)」はその一種である。
電気新聞2017年12月11日