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 近年のICTの急速な進化により、様々な分野において新たなデジタル化の取り組み・サービス開発が盛んに行われている。膨大な運転データや保守データを扱う火力分野においてもその有効活用が望まれており、関西電力火力部門ではビッグデータ分析等の人工知能(AI)活用に力を注いでいる。また、長年培ってきた技術・経験・ノウハウとAIとの融合により、新たな事業領域を開拓できると考えており、今週はその挑戦について紹介する。
 

60年以上の保守・運用ノウハウをサービスに

 
K-VaCS

 関西電力は60年以上培った火力発電所保守・運用のノウハウを生かし、「K―VaCS(ケイバックス)」と総称するエンジニアリングサービスを提供している。国内外で新規発電事業者が増えており、新設プロジェクトの基本計画から運転開始後の設備運用・保守管理に至るまで、当社ノウハウにニーズがあると考えているためである。

 発電所の運用フェーズでは、K―VaCSとAIを融合させた遠隔監視サービスの提供を行っている。遠隔監視サービスの提供は発電事業者としては国内初となる。ユーザーの視点から、不具合対応やリスク・コスト両面を意識した最適ソリューションの提供が強みだ。

 今年9月からオーストラリアのブルーウオーターズ発電所に対して提供している遠隔監視サービスでは、発電所の運転データをリアルタイムで受信するため、OSIsoft社のPI System(パイシステム)を導入し、データを一元的に収集し蓄積、可視化。ノウハウを反映し、運転状態・性能状態・トラブル監視などの目的別に30以上の監視画面を作成。現地と同等以上の監視を行えるようにした。

 

AI駆使し、異常の予兆を検知

 
 また、遠隔監視では不具合対応が後手になるという課題があることから、機械学習・深層学習などのAIを活用した「早期異常検知システム」を開発した。

 従来は、異常発生前に予兆のある不具合でも、警報値以下の予兆を人間が見つけることは難しかった。そこで、AI搭載の早期異常検知システムに、過去の不具合を学習させ、ビッグデータ分析を行うことで、予兆を精度良く、より早期に検知できるようにした。これにより、不具合については後手どころか先手を打てるようになった。

 学習させる不具合は、コスト影響の大きい計画外停止に至ったものから検討を行い、既に10以上の異常検知モデルを構築。今後も増やしていく予定である。

関西電力本店にある遠隔監視センター
関西電力本店にある遠隔監視センター

 

デジタルで実機を再現。発電機固有のクセを見抜く

 
 関電では、AI活用によるさらに高度なサービス展開を目指し、三菱日立パワーシステムズ(MHPS)と協業し、「デジタル・ツイン」を開発中だ。デジタル・ツインは、実際の発電所運転データからコンピューター上に発電所を再現するもの。機器の劣化状態や発電所固有の癖も含めて、実際の発電所の運転状態を忠実に再現できるため、デジタル・ツイン上でAIを使って様々な運転パターンを検証すれば、最適な運転状態を瞬時に発見できる。完成すればK―VaCSにも実装する方針だ。

 以上のように関電ではAI技術を火力分野における革新的技術の1つと捉え、様々な挑戦を行っている。お客さまにとって魅力的な価値を創造・提供していけるよう、これからもAI技術を活用したサービスを開発していく予定である。

 
【用語解説】
◆ビッグデータ分析
運転データ等の巨大で複雑な関係にあるデータ集合に対して、機械学習や深層学習(ディープラーニング)といったAI手法を駆使し、その関係性を明らかにすること。人間系では気付けなかった関係性まで発見することができる。

◆デジタル・ツイン
バーチャル上に実際の発電所を模した仮想発電所のこと。実際の運転データに対して機械学習や深層学習といったAI技術を活用することで、精度良く再現することができる。

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