グリッド・デモクラシーといっても、変動性再生可能エネルギー(VRE)は通常の同期発電機とは抜本的に異なる。前回、国際エネルギー機関(IEA)が取りまとめた、変動性再エネの導入レベルと各段階で必要となる技術的要件について述べたが、これは、同期発電機が減少することに伴う対応の必要性を秘めている。本稿では前回紹介したアドバンストインバーターによる「周波数・電圧の自律制御」と同様に、第4段階で必要とされている「疑似慣性」について述べる。
 

非同期電源が増加すると慣性力が低下する

 
 発電機や送電線のトラブルなどで、グリッドに対する供給力が失われると、周波数が低下する。周波数低下が一定以上になってしまうと電力システムを安定に保つことができなくなり、最悪の場合、全ての発電機がストップする全域停電に至ってしまう。これを防止するために、周波数低下があるレベル(1.5ヘルツ程度)に達した時に一部の電力供給を自動的にストップし(負荷遮断)、需給バランスを回復させる対応がとられる。通常、発電機1台の停止など単独の故障では、周波数低下が負荷遮断まで至らず、10秒程度で健全な発電機のガバナフリー(1次調整力)が働いて発電出力を増すことにより、周波数低下を食い止め上昇に転じさせるようになっている=図1
図1_故障発生時の周波数変化_4c

 グリッドにつながっている発電機は基本的に同期発電機であり、電力システムの周波数変化を自律的に小さくする“慣性”を有するため、上記の仕組みが安定に機能する。この慣性が大きいほど周波数低下スピード(Rate of Change of Frequency=RoCoF)が小さく、周波数低下幅も小さいため、電力システムの安定性が高い。

 今後、変動性再エネをはじめインバーターを介した非同期接続電源が増え、同期発電機による火力発電が減ると電力システムの慣性が低下し、ひいては安定性も低下することになる。アイルランド、南オーストラリア、米テキサス州など、変動性再エネの導入が顕著で、かつ周囲との系統連系が弱く孤立性が高い地域では、非同期型の発電資源の増加に伴う慣性力低下や関連の問題が中心的課題として検討されている。
 

インバーターに疑似慣性機能を持たせるという解決策

 
 再エネ中心の電力システムに向かうためには、この問題を解決しなければならない。対策としては、同期調相等の慣性力を有する機器を導入することが考えられるが、インバーターに“疑似”慣性機能を持たせる研究開発が精力的に行われている。疑似慣性を有するインバーターは、周波数・電圧をモニターし、これらの大きな変化に対応して有効電力・無効電力を出力させることによって慣性の振る舞いを模擬し、RoCoFを小さくするなど、電力システムの過渡的な安定性確保に寄与する=図2。特に、同期発電機の機構をモデル化し、これに基づいて出力制御を行う方式を疑似同期発電機(Virtual Synchronous Machine=VSM)という。
図2_慣性力向上による周波数変化の改善_4c

 疑似慣性や周波数・電圧自律制御のようなインバーターの新たな機能は、主に制御ロジックとソフトウエアの開発が中心テーマであり、機能は必要になるまでオフに設定しておくことが可能である。インバーター接続機器が確実に増大することを考えれば、これらの特性と系統導入効果を詳細に検証しつつ、グリッドコードや認証の仕組みについても並行して検討し、早期の実装を指向することが重要ではないだろうか。グリッド・デモクラシーを支えるグリッドコードは、技術が目指す羅針盤にもなる。

【用語解説】
◆同期発電機
いくつかの種類があるが、電力システムでは、固定されたコイル(電機子)に対して電磁石を備えた回転子(ローター)が回転し、その回転速度に同期した交流電力を発電する回転界磁式を利用。

◆電力システムの慣性
系統の周波数が低下すると発電機ローターの回転速度が低下するが、ローターの慣性モーメントが大きいほど、周波数変化率(Rate of Change of Frequency=RoCoF)を小さくする。また、減少する回転エネルギーは電気的エネルギーに変換されてグリッドに供給され、周波数の低下幅を小さくする。このような慣性の効果は、概ね各発電機の慣性の合計で決まる。

電気新聞2019年12月23日